<ニッポンの鱒釣り・すっぴん>の告白。

鱒釣り2.jpg 自選パロディ集セカンド・シーズン PARTⅣ
<ニッポンの鱒釣り・すっぴん>の告白。
 introducing 「四月物語」「いつか読書する日」
<ニッポンの鱒釣り・すっぴん>はサクラマスみたいな顔だが、釣りをやったことがない。どうやらあのフライが気持悪いらしい。
「信じられる? あんな毛虫を使うのよ」
「フライフィッシングがダメなら、ルアーにすればいい」
「何それ?」
「ニセモノの小魚をエサにするやつだよ。カラフルだし、君ならイヤリングにも使える」
「やっぱ優雅に投げる姿がいいのよね」
そしておもむろに彼女が告白した。「ブラッド・ピットみたいな彼氏となら一緒にやってもいい」
<ニッポンの鱒釣り・すっぴん>はサクラマスみたいにちっちゃいが、映画に詳しい。
かつて彼女は、某雑誌社が主催する「映画検定」を受験してこう言った――「解るわけないじゃない。主人公が地下鉄に乗らない地下鉄映画なんて」
<ニッポンの鱒釣り・すっぴん>はサクラマスみたいに正しかった。後日、2級合格証の入った通知書にお詫び文が添えてあったからだ。
つまり、問題用紙に答として印刷されてあった4本の映画は、すべて主人公が地下鉄に乗る映画だったのだ。
その話を聞いた僕はニヤリと笑った――「じゃあ、釣りをしない釣りバカ映画があってもいいかも」
ハイホー、マンハッタン坂本です。



武蔵野大学1年生、楡野卯月(松たか子)の告白。

誰も気づかなかったけど、山崎先輩(田辺誠一)のロッカーの名札を盗んだのは私です。先輩が東京の武蔵野大学に進学して猛烈に悲しかったので。
ムチャクチャ頭のいい先輩。だだっ広い原野の中でギターを得意気に弾く姿が忘れられない先輩。武蔵野という響きが似合う先輩。
そんな先輩が武蔵野堂という名の本屋でアルバイトしていることを知ったとき、私は決心したの。残り半年の高校生活を武蔵野に捧げるわって。
北海道の旭川から上京した私にとって驚くことばかり。引っ越し屋が運んできた荷物が部屋に入りきれなかったのは残念だったけど、トラックが去ったあと気づくと辺り一面が桜吹雪で、トレーナーの下から花びらがこぼれ落ちたわ。
何でここの大学を受けたの、と何気に訊かれたとき、すごく焦ったわ。入学式のあとのホームルームでよ。趣味は釣りですと自己紹介した佐野さえ子から突っ込まれたの。
なんか初めてのことやりたかったから、と入部した理由を友人に電話で話したけど、さえ子が強引に釣りサークルに誘ったからよ。
行ってみるとフライフィッシング専門だとか言って、部長の深津が孫悟空の如意棒を貸してくれたの。ホントはオービスの4番とか言う高級な釣竿らしいんだけど。
それで運動場で、リールから延びる長い釣り糸を飛ばす練習をさせられたの。筋がいいとかおだてられたけど、何か新体操やってるみたいだった。
3度目の正直で、武蔵野堂へ入ったら先輩がいたの。私と先輩だけだったのでとても緊張したわ。突然先輩が近づいて来たけど、私の足元にある収納ボックスが目当てで、中にストックしてある本を捜しにきただけなの。
4度目のとき、わざと高い棚に置いてある本を取ってもらったわ。こちらでよろしいですか、と言って先輩が黄色い背表紙の本を私に向かって見せたとき、すぐに返事しなかったの。見上げる私の顔をじっと見ていて欲しかったので。でもレジで高校の後輩だと気づいてくれたわ。
店の外に出ると雨が降っていた。先輩が傘貸してあげると言ってくれたけど、私は逃げるようにチャリンコで去ったわ。でも雨が激しくなって雨宿りしてたら、画廊から初老の紳士(加藤和彦)が出てきて黒い傘を貸してくれたの。私は走って店へ戻ったわ。
店の忘れ物を先輩が持ってきたので、赤い傘を選んだの。開くと骨が2,3本折れてたけど、気づかず走り出し私を先輩が呼び止めたの。そして急いで別の傘を開いたけど、どれも壊れててバツが悪そうだった。笑っちゃったわ。でもとっても幸せだった。これでいいです、と何度も何度も言ったわ。
また返しに来ますと言い残して駆け出したけど、私の想い通じたのかしらん。
デキの悪い私が武蔵野大学に合格したとき、担任の先生は奇跡だと言って祝福してくれた。でもこう言ってみたいのよ。
「どうせ奇跡と呼ぶなら、愛の奇跡と呼びたい」
   (注釈1)

牛乳配達が生き甲斐の独身五十女、大場美奈子(田中裕子)の告白。
「私には大切な人がいます。
 でも私の気持ちは絶対に、知られてはならないのです。」

そんな出だしで書いた葉書が夜のラジオ番組で読まれたのが間違いだった。リクエストしたポール・ウィリアムスの「雨の日と月曜日は」がかかったのは嬉しかったけど、きっと同級生の高梨槐多(岸辺一徳)の奥さん(仁科亜季子)に聞かれたんだわ。
私は毎朝牛乳配達をする。自転車で田畑牛乳店へ行って、登っていく階段別に仕分けした箱を軽トラの荷台に乗せるの。この町は平地が少なくて一面山肌に民家が建っているからなの。
牛乳瓶の詰まったショルダーバッグを肩にかけ、気合を入れて何十段も掛け上がる。牛乳受けに入った空き瓶を回収し、新しい牛乳瓶を入れる。
ある日、高梨宅の空き瓶にメモが入っていたの。お会いできませんか、と末期がんに冒された妻の容子さんが書いたの。
槐多は市役所の児童福祉課に勤務している。昼間働くスーパーで幼い子供が万引きしたとき、彼に相談するよう店長(香川照之)に進言したことがあるの。
容子さんから催促されたから、焦って高梨宅へ駆けつけたの。そしたらベッドに横たわった彼女から懇願されたの。私が死んだら、槐多さんと一緒に暮らして欲しいって。怖気づいたわ。
だって私は二十歳のとき、一人でこの町で生きていくと決めたのよ。それに牛乳配達が生き甲斐なの。町中の人に配りたいのよ、夢だけど。
また来ますから、と言ってそのまま放っておいたら、容子さんが亡くなったの。通いの看護師から彼女の手紙を渡されたわ。あなたたちは互いに知らんぷりをしながら、結局引かれ合っているのです、なんて書いてある。いたたまれないわ。
それで葬式が終ったあとのある日、槐多を自転車で誘ったの。
目的地は私が17歳のときに母が死んだ場所。母を自転車の荷台に乗せた槐多の父親が死んだ場所でもある。二人がトラックに轢かれて以来、一度も行ったことがなくて、事故の場所にお花とお線香を供えたかったのよ。
こんなところに二人は何しに来たんだろうと彼が言うから、私はダムの方を指差したわ。
何で私のこと避けたのと訊くと、プールの授業で溺れそうになったとき、お前に笑われたからだとか言うのよ。笑われて死んでいくんだって、バカみたい。
自転車で帰ろうとすると槐多がかけ寄ってきて抱きしめたの。ずっと思っていたことをしたいって。私は答えたわ。全部して、と。それで私の家に入ったら、服を脱ぐのももどかしいくらい激しく抱き合ったわ。
ホントにバカよ。児童福祉課の職務か知らないけど、川で溺れそうな子供を助けて死んでしまうんだから。死顔が笑っているなんて、ひとりだけ幸せにならないでよ!
これからどうするの、と世話になってるおばさん(渡辺美佐子)から訊かれたから答えたわ。本でも読みますって。
   (注釈2)
挿入歌「雨の日と月曜日は」(歌:ポール・ウィリアムス)

<ニッポンの鱒釣り・すっぴん>が怒っている。「何よこの2本立て。確かに1本目は釣りをしないで男を釣る映画よ。でも2本目は釣り竿すら出てこないじゃない」
「切ない片想いの映画だろ」
「どうつながるのよ、釣りをしないことと片想いが」
「想像してみろよ。お互いの親が何しに行ったのか? ダムの溜池で釣りをするつもりだったかもしれない」
「こじつけもはなはだしいのよ。あんたはいつも、他人の映画を勝手に自分の都合のいいように変えるんだから。それに五十女は片想いじゃないわ」
彼女の言う通りだった。
僕にも相思相愛になった女の子がいる。中学1年生のとき、隣りの席に座った二卵性双生児の片割れだ。彼女はとても聡明で、授業で分らなかったところを丁寧に教えてくれた。その代わり僕は、日曜洋画劇場で見た映画の話を聞かせた。
3学期の終業式。数人の同級生が見守る中、彼女はおずおずと僕に近づきプレゼントを差し出した。僕が転校するからだ。
それから46年の月日が流れ、再び彼女に会いたいと思う。
おそらく彼女には孫がいて、おばあちゃんと呼ばれているだろう。たとえ再会ができても、僕のことを憶えていないかもしれない。そんなことは構わない。会えさえすればいいのだ。
そして再会の暁には、旧友の誰かを捕まえてこう言ってみたい――「釣りでも始めてみるか」
注釈1、「四月物語」(脚本、監督:岩井俊二)
      日本映画 1998年製作 英題:April Story
      ピアノ演奏:松たか子

      メーカー:ノーマンズ・ノーズ
      メディア:DVD
注釈2、「いつか読書する日」(監督:緒方明)
      日本映画 2005年製作 英題:Milk Woman
      モントリオール世界映画祭審査員特別賞受賞
      キネマ旬報ベストテン主演女優賞受賞
      毎日映画コンクール監督賞、主演女優賞受賞

      メーカー:アミューズ・ソフトエンタテインメント
      メディア:DVD

関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。