「紅い花」症候群。
「紅い花」症候群。
introducing 「紅い花」「リアリズムの宿」「無能の人」
僕と竹中直人とは、いくつか共通点がある。
まず、上野樹里が演じたのだめが好きだ。
単純に僕はドラマのファンとして。彼はシュトレーゼマンとして。彼が演じたキャラクターは、マエストロというよりエロじじぃと言われることが多い。
僕もエロ爺(じい)と言われたことがある。エロ・テロリストと言われた方がカッコいいのだが、僕と苦楽を共にした職場の後輩も僕をブロガーに仕掛けた後輩も、共に自称しているので仕方なく譲る。
ついでながら、竹中直人がドラマで共演したもと天才ピアニストで、のだめが通う音大の理事長を演じた秋吉久美子は、僕と同学年である。
1974年、大学の入学式で僕が初めて口をきいた同級生は、福島県立磐城高校出身で、磐城女子高校出身の彼女をアバズレだと言った。
だが秋吉久美子は、僕らの学年のスター女優に上りつめ、同じ学年の竹内まりやがスター歌手となる。
僕より一歳年下の癖に、竹中直人が彼女と同じ誕生日というのがムカつく。
次に、川久保玲さんがデザインした洋服が好きだ。
コム・デ・ギャルソンを好きになった理由は知らないが、これは全くの偶然である。
髪型がお互いに「RAMPO」カットだ。
周知の通り、「ファンシイ ダンス」や「シコふんじゃった。」で共演した本木雅弘が明智小五郎を演じ、竹中直人が珍しくカッコよく江戸川乱歩を演じたときの髪型である。と言っても僕が勝手にそう呼んでいるだけで、これは純然たる彼の物真似だ。
そして偶然にも、つげ義春の劇画が好きだ。
こんばんは、マンハッタン坂本です。
「分かんないと言って、あまり軽蔑しちゃいけないよ。分からないから描くんだよ」
つげ義春(草野大悟)が持ち込んだ「紅い花」の原稿を見る出版社のスタッフに向かって、編集長(藤原釜足)がそう言う。
つげのもっとも古い記憶は、川に向かって三人の人影が伸びている。その人影は、小さい妹をおぶった少年・義春と、金太郎飴とラムネの入った箱を抱えた行商人の母親だ。母は、泣くのじゃないよと「涙の渡り鳥」を切なそうに歌っている。
昭和20年(1945年)3月10日、東京大空襲で失ったつげの妹は、彼の劇画の中で、オカッパ頭の美少女・キクチサヨコに変身する。彼女は白地に紅いレフアの花をあしらった浴衣を着ている。
戦前。サヨコ(沢井桃子)は、年老いたじっちゃん(嵐寛寿郎)の代わりに山奥の茶屋で店番をしている。近くの川辺には紅い花が咲き乱れ、イワナやヤマメが釣れる穴場がある。釣り人が立ち寄ると、同級生で尋常小学校6年生のシンデンのマサジが案内し、そのときの駄賃の分け前をくれる。
少女は腹が突っ張って元気がない。川辺でかがんでいるところをマサジに見られる。少年の目の前をおびただしい数の紅い花が流れていく。
じっちゃんがなくなる。近くで消息を絶った脱走兵を追って駐在と村人が来る。
仕方なくサヨコは山を降りる。
少女は古本屋の店番をしている。いつものように学生が立ち読みに来る。彼はマーク・トウェインの「ハックルベリー・フィン」の原書を毎日5ページずつ読んでいる。
サヨコは学生に恋をし、一生懸命貯めた十円札を本の中に忍ばせる。そして手紙を添える――「きっと買いに来て下さいね」
学生はその金で本を手に入れるが、特高に捕まる。自由主義者だった古本屋の主人と一緒に。
再びサヨコは、山奥に舞い戻る。
マサジたちがいつも歌っている、たんたんタヌキの歌は聖歌687番「リバーソング」だった。
(注釈1)
鳥取市国英(くにふさ)駅に二人の若い男が立っている。木下(山本浩司)と坪井(長塚圭史)だ。ケータイで連絡が取れたものの、「ゴドーを待ちながら」の如く「リアリズムの宿」を転々としながら船木という男を待つ。重そうなショルダーバックには撮影機材が入っているが、一度も出せない。その代わり、すっぽんぽんの美少女と出会う。
泊まる予定の安宿が閉まっていたので旅館の近くで釣りをしていると、流暢な日本語を喋る外人にヤマメを数匹高値で売りつけられた挙句、その外人が旅館の主人だと分かり、翌朝海岸で暇つぶしをしているところに、あっちゃん(尾野真千子)が走って来たのだ。
ボブ・カットの彼女は、海で泳いでいる間に服を盗まれたと言う。
二人は原宿から来たあっちゃんに服を買って与え、雪に覆われた海岸を一人で歩く彼女を眺めながら映画人らしい妄想を働かせる。
「ねじ式」に出てくる街並みが広がる高級旅館に泊まり、彼女の手引きで女湯に一緒に入る。三人でプリクラをし、ゲーセンで遊ぶ。
だが彼女は、ぷいとバスに乗っていなくなる。
所持金が寂しくなったので、仕方なく安民宿に泊まる。今にも死にそうな咳をする旦那がおり、部屋から風呂から何もかも汚い。
「泳いでなかったような気がするな」
臭い布団にくるまった木下が坪井に向かって彼女のことをそう言う。帰ったら一緒に映画を作ろうと約束する。
翌朝、岩美駅を通ると、青いマフラーをした女子高生のあっちゃんがいる。彼女は少しだけ瞬きし、手のひらでさよならを言う。
(注釈2)
「同じ貧乏なら、漫画描いてる貧乏の方があたし良かった」
役立たずの「無能の人」呼ばりされる助川(竹中直人)は、美少女がそのまま大人になったような不釣合いな妻のモモ子(風吹ジュン)からそう言われる。それもそのはず、馴染みの古本屋の主人(大杉蓮)から薦められて石売りをやっているからだ。
多摩川の河原で拾ってきた石に意味深な名前をつけ、掘っ立て小屋にそれを並べても、物乞いにしか見えない。
老人(神代辰巳)が一人だけ石を気に入ってくれる。代わりに置いていった籠の鳥は珍しいメジロで、たちまち8万円で売れる。おしの老人は伝説の鳥男だったのだ。
ハイキングがてら石捜しに家族で高尾山に登る。ピンクのマフラーを巻き白いソックスをはいたモモ子が可愛い。幼い息子が見つけた石に夫婦滝と名づけ、愛石オークションに出品するが失敗する。
鳥男が羽ばたこうとして川に落ちる。それがきっかけで久々に助川は漫画を描く。だがどこの出版社も相手にしてくれない。ついに妻から愛想をつかされる。チラシ配りで足が棒のようになり、仕方なく競輪場で働き出したからだ。
多摩川で胴長を履き、渡し場の仕事を始める。
そんなカッコ悪い父親を息子が迎えに来る。モモ子が助川の手をそっと握る。競輪場の投票所窓口に差し出す、墨汁のついた指が好きだったからだ。
三人家族が川ぞいの小径を家路につく。夕暮れが匂うように広がっている。
エリック・サティの「ジムノペディ」を彷彿とさせるGONTITIのギターがいつまでも耳に残った。
(注釈3)
この映画の優れているところは、二つある。
全編GONTITIの演奏を使ったこと。妻役に「岸辺のアルバム」以来ファンだった風吹ジュンを起用したこと。彼女は「紅い花」の美少女そのままである。
竹内まりやの件は目をつぶることにする。
僕は大学4年間を調布市で過ごした。当時、安部公房と井上光晴と水木しげるも住んでいた。つげ義春もいたことは後から知った。水木しげるのアシスタントをやっていたらしい。
しかも僕は京王閣競輪場の近くに住んでいた。そこでつげ義春の奥さんが働いていたことを、「無能の人」を見るまで知らなかった。
1885年、タイプライターで打った最初の小説である「ハックルベリー・フィン」を発表したアメリカの偉大なる作家マーク・トウェインは、こんな名言を残している。
「自分を励ます最上の方法。それは誰かを励まそうと努力することだ」
僕だってたまには友人を励ます。たいてい酔っ払っているときだ。
そう言えば、今日で56歳になった。ハゲ増す男に磨きをかけるぜ。
注釈1、「紅い花」(演出:佐々木昭一郎)
NHKドラマ 1976年10月22日放映
脚本:大野靖子 音楽:池辺晋一郎
文化庁芸術祭テレビドラマ部門大賞受賞
国際エミー賞優秀作品賞受賞
「紅い花」(著者:つげ義春)
初版:1976年

出版社:小学館
メディア:文庫
注釈2、「リアリズムの宿」(監督:山下敦弘)
日本映画 2003年製作
原作:つげ義春

メーカー:バップ
メディア:DVD
注釈3、「無能の人」(監督:竹中直人)
日本映画 1991年製作
原作:つげ義春
ヴェネチア国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞
ブルーリボン賞主演男優賞受賞

メーカー:ジーダス
メディア:DVD
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