定年退職が近づくと、何もやることがない。

定年退職が近づくと、何もやることがない。
introducing 「鉄道員(ぽっぽや)」「セブン」「会社物語」
仕事一筋で趣味のない人なら、お茶をすすりながら、窓辺で見慣れた外の風景を眺める。
趣味人なら、「死ぬまでに登りたい百名山」なんてリストをこしらえながら、ほくそ笑む。
愛妻家なら、退職金の計算をしつつ、プロポーズ・アゲインなんて洒落込んで指輪を物色する。
いやいや、サラリーマンなら残務整理やら引き継ぎやらやることが一杯あるはずだ。
なんて思いきや、すでに組織は自分なしで動いていることに気づく。
「アバウト・シュミット」のジャック・ニコルソンのように、苦労してまとめた書類の山をゴミ捨て場で発見するのが落ちだ。
(注釈1)
こんばんは、マンハッタン坂本です。
高倉健なら、廃線間近の終着駅の駅長だから、「鉄道員(ぽっぽや)」としてひたすら職務を遂行するしかない。先立った妻や苦労を共にした同僚や世話をした少年の想い出にひたりながら。
おまけに、赤ん坊のころ亡くした一人娘が幽霊となって現れ、成長する姿を見せてくれる。
僕には気恥ずかしいくらいファンタジーな話だ。
(注釈2)
モーガン・フリーマンなら、6日後に定年が迫った刑事だから、猟奇殺人事件なんか新任の若い刑事に任せて、捜査に加わりたくない。
ところが、「七つの大罪(セブン)」を模した極めて知的で教訓めいた殺人が矢継ぎ早に起こり、首をつっ込まらざるをえない。犯人を追いつめるが、悲惨な結末が待っている。
僕にはヘビーな話だ。
(注釈3)
それに引き替え、「会社物語」の花岡(ハナ肇)は一流商社の平凡な課長だ。会社で暮らしてきたような人だが、定年の日が近づくと、心を寄せる若いOLが一度きりのデートをしてくれたり、夜中に部下とレーザーガンで遊んだりする。
花岡は34年間の会社生活を振り返り、独白する。
「我々サラリーマンはネクタイを締めた村人です。苗を植えるように残業をし、稲が実るように仕事が片付き、笛や太鼓を鳴らすようにカラオケを歌った」
花岡と同じように定年が近い谷山(谷啓)は、ジャズ喫茶で水割りを飲みながらつぶやく。
「最後に一発、会社でジャズを演奏してみたいな」
その言葉を切っ掛けに社内のジャズ好きが集まり、スイング・バンドが結成される。
花岡はドラムスとして参加を決める。我が家に帰れば、自分に無関心な妻や出戻りの娘やキレやすい予備校生の息子がおり、居心地が悪いからだ。
ジャズを語らうところ、おいしい酒がある。
クラリネット(安田伸)、ギター(植木等)、ベース(犬塚弘)、トロンボーン(谷啓)、ピアノ(桜井センリ)そしてドラムス(ハナ肇)、すっかり意気投合したメンバー(もとクレージーキャッツ)は、フェアウェル・コンサートで、ベニー・グッドマンの名曲「メモリーズ・オブ・ユー」を演奏する。
実に気持よさそうだ。
(注釈4)
定年の日は、何はともあれ、気持ちよく迎えたいものだ。プラットホームにばったり倒れることなく、相棒が逮捕される姿を見ることもなく。
僕は定年前で退職した。送別会でどんな余興を披露しようかと思い悩んだ。カラオケ・ボックスで酔った勢いでやる滅茶苦茶ダンスは恥さらしだ。
そこで思いついたのが、のりピーとのツーショット写真である。かくまっているのは、この僕で~す、なんて爆弾宣言するのだ。だが送別会の直前に彼女は警察に出頭した。一発芸は不発に終わり、小道具だけが残った。
1986年、デビューしたばかりの、のりピーは滅法可愛く、輝いていた。ふわふわの白いコートはダサかったが、彼女の隣りでぎこちない僕はそれ以上にダサかった。
定年退職後は、ジャズ三昧もいいけれど、何はともあれ、酒と映画だ。
当面の目標は、「酔っ払うまでに観てほしい映画500本」だ。
「会社物語」でも「スウィングガールズ」でも、得意のトロンボーンを演奏してくれた谷啓さんが亡くなった。
何とも親しみやすいとぼけた味は、右に出る者がいなかった。ご冥福をお祈りします。
注釈1、「アバウト・シュミット」(監督:アレクサンダー・ペイン)
アメリカ映画 2002年製作 原題:About Schmidt
注釈2、「鉄道員(ぽっぽや)」(監督:降旗康男)
日本映画 1999年製作
原作:浅田次郎
注釈3、「セブン」(監督:デビッド・フィンチャー)
アメリカ映画 1995年製作 原題:Se7en
注釈4、「会社物語 MEMORIES OF YOU」(監督:市川準)
日本映画 1988年製作
ブルーリボン賞主演男優賞(ハナ肇)受賞
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送別会の一発ギャグ、「のりピーが先に逮捕されたから不発に終わった」ってなってますが、結局やらなかったってことですか?だとしたらもったいない。「かくまっていたのは~」にセリフをかえてやるべきだったと思う。せっかくの小道具だったのに・・・!