四川風味噌ラーメンなんて存在しない。

熊本・桂花ラーメン
腹が減っても、映画は観れる。 PARTⅡ
四川風味噌ラーメンなんて存在しない。
introducing 「恋人たちの食卓」「バベットの晩餐会」
僕が小学生のとき、食堂を営む伯父がつくってくれた味噌ラーメンを生まれて初めて食べた。そのときとても美味しかったことが忘れられず、90歳で亡くなる数ヶ月前に伯父に打ち明けたことがある。
どういうわけか、長い間僕はその味噌ラーメンを四川風と思い込んでいた。
しかしながら、中国に味噌という調味料はない。
ラーメンにしたって、その原型とも言える中華そばは、現在僕らが当たり前に食べているラーメンとはかなり違う。
昔、豆板醤を使ったインスタント・ラーメンがあり、それを「四川風・味噌」と称していた。どうやら伯父がつくってくれた味噌ラーメンを勝手に四川風と思い込んだようだ。
だがそんなラーメンなんて存在するわけがない。
ハイホー、マンハッタン坂本です。


日曜日の夜、いつものように朱家では家族そろって食事をする。一流ホテルの料理長だった父親(ラン・シャン)の手間暇かけた豪華中華料理が食卓に並ぶ。高校教師の長女チアジェン、料理人になることを許されず航空会社でキャリア・ウーマンをする次女チアチェン、大学生の三女チアニン、彼女たちは黙って舌鼓を打つ。
そこへホテルから緊急電話が入る。
「料理と同じで、出来上がれば興味は失せる」
偽物のフカヒレをつかまされ助けを求めてきた同僚の現料理長に向かって、老朱は酒を飲みながら、大きくなった娘たちの愚痴を言う。
味覚を失いかけた彼にとって唯一の楽しみは、長女の友人でシングルマザーのチンロンの一人娘、小学生のサンサンに豪華ランチを届けてやることだ。
ある晩餐の日、家を出て行くと三女が爆弾宣言をする。同級生の彼氏と仲良くなり、子供ができたからだと言う。姉たちは唖然とする。
今度は、大学時代の失恋で男に見向きもしなかった長女が婚姻届を出したと言う。差出人不明のラブレターが生徒の悪戯だと分かった途端、心を寄せていたバレーボールのコーチと一気にゴールインしたからだ。
娘二人の相手とチンロン一家が加わり、大勢で晩餐会が開かれる。
そこで老朱は何杯か酒をあおり勢いで宣言する。家を売って、チンロンと結婚する、と。卒倒するチンロンの母親。
一度は父親の面倒を見ると覚悟したものの、チアチェンはアムステルダムへの転勤を決意する。そして初めて父親のために料理を作る。
老朱は、彼女の作った中華スープを何度もレンゲで味見する。味覚が戻ったことに気づき、手に手を取って娘と喜ぶ。
(注釈1)

19世紀後半。「バベットの晩餐会」が開かれたのは、彼女がデンマークの辺境の村を訪れてから14年後だった。その年は、彼女が仕える老姉妹の父親であるプロテスタント牧師の生誕百年である。
動乱のパリから逃れてきたバベットは、質素な生活をする老姉妹のもとに身を寄せていた。かつて療養中に妹のフィリパの美声に魅せられ、熱心に彼女のレッスンをしたことがある有名な歌手のアシール・パパンの口利きがあったからだ。
海を渡ってフランスから高級食材が届く。
年老いた信者たちは、何を食べさせられるのか不安におののき、決して料理のことを口にしないと誓い合う。
老姉妹の家に信者たちが集まってくる。食卓に並べられる見たこともない料理の数々、ただただ驚くばかりである。超高級ワイン、海ガメのスープ、キャビア、などなど。
スウェーデンの将軍ローレンスだけがいちいち感激しながら口にする。信者たちが見よう見真似で食べ続ける。そしてウズラのパイ詰め石棺風が出てくる。
パリの最高級レストラン、カフェ・アングレで食べたことがある、と思わずローレンスが言う。
そのときホストを務めた将軍がこの料理を創作した天才女性シェフのことをこう形容したのだ。
「食事を恋愛に変えることのできる女性だ」
信者たちの戸惑った顔が次第に和らいでいく。食べ終わる頃には、気難しくいさかいの絶えなかった彼らが生き生きと幸せになっている。
帰り際にローレンスは、かつて心を寄せた姉のマーチーネに告白する――「夜ごと、あなたと食事をする。肉体がどんなに離れていようと」
バベットが宝くじで手に入れた1万フランは、12人分の食事代に消えた。
(注釈2)

正直言って、僕に豪華な料理なんていらない。おいしいごはんと味噌汁があれば幸せである。
ごはんの代わりに「かもめ食堂」の小林聡美が作ったおにぎりでもいい。
「花とアリス」の蒼井優が作った特製おにぎりサンドもいいけれど、これはランチ・タイム用だ。
(注釈3)
ランチ・タイムの常連であり、酒宴のあとの定番と言えば、豚骨ラーメンである。
1955年、僕が生まれた年の6月、熊本を代表する桂花(けいか)ラーメンが開店した。現在の熊本市役所の場所にあった電電公社・九州電気通信局のすぐ近くである。
僕の親父は今年で90歳になるのだけれど、開店当時から桂花ラーメンのファンである。実に60年近く食べ続けている。
1972年9月、桂花ラーメンは熊本以外に初めて支店を出した。新宿東口駅前店である。2階建ての異常に狭い店舗で、調布に住む大学生の僕にとって豚骨ラーメンが食べられる唯一の店だった。
味噌ラーメンは、札幌ラーメンどさん子を食べた。インスタントは、サッポロ一番みそラーメンが今でも好きだ。
2010年、桂花ラーメンが民事再生法適用を申請した。
僕と親父が愛した老舗を救ったのは、中国でもっとも有名な、熊本の味千(あじせん)ラーメンである。
心から敬意を表したいと思う。
ちなみに、味千ラーメンの創業者は、「恋人たちの食卓」を監督したアン・リー(僕と同学年)と同じ台湾生まれである。
「中国で一番成功している日本の外食チェーンは熊本の小さなラーメン屋だって知ってますか?」(著者:重光克昭)

出版社:ダイヤモンド社
メディア:単行本
山小屋風焼スパゲッティは実在する食べ物である。文字通り、「山小屋」という名のジャズ喫茶店のマスターしか作れない懐かしい味のするスパゲッティだ。
日活のスタッフだったマスターが調布に店をオープンして以来、40年も作り続けている。数年前僕は30年ぶりに食べたけれど、以前と変らぬ味で嬉しかった。
昔と変わらぬ美味しさは、宝物である。酒もまた然り。
ちなみに、熊本市内には、味噌天神と呼ばれる本村神社がある。「日本で唯一味噌にご利益がある」と言われる神様をまつった神社だ。
毎年10月25日には例大祭が開催され、味噌のプレゼントや味噌汁の試食などが行われる。
ところで、上野動物園オリジナル・四川省パンダ・ラーメンなんて存在する?
注釈1、「恋人たちの食卓」(監督:アン・リー)
台湾映画 1994年製作 英題:Eat Drink Man Woman

メーカー:ジェネオン・エンタテインメント
メディア:DVD
注釈2、「バベットの晩餐会」(監督:ガブリエル・アクセル)
デンマーク映画 1987年製作 原題:Babettes Goestebud
原作、アイザック・ディネーセン
米アカデミー賞外国語映画賞受賞

メーカー:ポニーキャニオン
メディア:DVD
注釈3、「かもめ食堂」(脚本:監督:荻上直子)
日本映画 2006年製作
原作:群ようこ

メーカー:バップ
メディア:DVD

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