新聞屋を夫にするな!

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新聞屋を夫にするな!
introducing 「ゾディアック」「フロント・ページ」
何かと「屋」をつけるのが好きだ。
個人の性向をさす場合、「がんばり屋」とか「わからず屋」とか呼ぶ。周りの誰よりも知識が豊富でいろんな質問に答えられる人を「雑学屋」、何かイベントをやる際に必要な物を集めてくる人を「調達屋」という。
職業に「屋」をつけるのも好きだ。
八百屋とかレコード屋とか具体的にモノを売る商売より、具体的に何をやっているのかつかみどころのない職業の方が面白い。極端に特化した仕事をする人より、「なんでも屋」的に仕事をこなす人の方が興味深い。
例えば、「技術屋」とか「政治屋」とか呼ばれる人たちがいる。家電の修理ならなんでもできる人、やたら大臣を歴任する人だ。後者はあまり感心しない。
映画製作に携わる「活動屋」の中には、ひとりで何役もこなす万能職人や役者がいる。
マス・メディアに携わる「広告屋」は、クライアントから請け負った商品ならなんでも宣伝する。
「ぶんや」を自称する人たちがいる。歌舞伎言葉の「文屋」ではない。新聞屋の略だが、ただの新聞記者ではない。ジャーナリストなんてカッコもつけない。
おそらく彼らは、記事のためなら、いや、真相究明のためなら、なんでもやるにちがいない。
ハイホー、マンハッタン坂本です。
「犯人に直接会って、目を見て、確信したいんだ」
サンフランシスコ・クロニクル紙のロバート・グレイスミス(ジェイク・ギレンホール)は、後妻のメラニー(クロエ・ゼヴィニー)に向ってそう言い張る。
彼は犯人が送ってきた最後の暗号文を解読しTVのインタビューを受けていた。
何故あなたがやるの? 子供たちの安全が心配な妻に詰め寄られるが、誰もやらないからだと答える。最初の暗号文が社に届いてから10年が経過していた。
1969年7月4日、車に乗った人妻のダーリーンが射殺され、同乗したマイクが足を撃たれる。使用した弾や女の死に様を詳細に書いた手紙と暗号文を送りつけた犯人は、次に起こした殺人で「ゾディアック」と名乗る。
風刺漫画家でパズル好きのグレイスミスは、暗号解読に夢中になる。ベテラン記者のポール・エイブリー(ロバート・ダウニー・Jr)が事件を追っている。
暗号文にある「危険な動物」は「猟奇島」からの引用で、主人公のザロフ伯爵は娯楽で人を狩る男だとエイブリーに教える。読書も趣味なのだ。
駐車場に停車したタクシーの中でゾディアックが運転手を射殺する。目撃したのが子供だと知った犯人は、スクールバスを狙うと脅迫してくる。離婚した妻から預かった子供が心配だ。
ポールは、犯人をホモ呼ばりする記事で脅迫される。66年の殺人が第一犯行だと報道し、デイブ・トースキー刑事(マーク・ラファロ)から嫌われる。
刑事は、捜査するうちにリー・アレンが真犯人だと確信する。裁判所から令状をとり家宅捜査するが、決定的な証拠をあげられない。
ポールは酒におぼれ脱落する。
グレイスミスがトースキー刑事と初めて出会ったのは、事件をモデルにした「ダーティハリー」の市警向けの特別上映会のときである。その後、長引く捜査でストーキーの相棒が降り、彼ひとり捜査を続ける。
グレイスミスは、新しい手がかりをつかむ度に刑事に相談する。その彼も51ヶ月ぶりに犯人から送られてきた手紙で失脚する。証拠捏造の疑いをかけられたからだ。
ひとり犯人を追うグレイスミスは、リーが真犯人である決定的な手がかりをつかむ。すでに妻は子供を連れて実家に帰ったあとだ。トースキーの家へ駆け込み協力を求める。グレイスミスがつかんだ事実に説得力があったが、証拠がない。刑事は、本を書き上げろと言うしかない。
1983年、リー本人を目で確かめたグレイスミスは、その8年後に「ゾディアック」を出版する。
かけ出しの風刺漫画家が最後まで諦めなかった。
(注釈1)
HURDY GURDY MAN(歌:ドノバン)
「葬儀人やディーラー、スリならいいが、新聞記者を夫にするな」
1929年、6月6日。シカゴ・エグザミナー紙の編集長ウォルター・バーンズ(ウォルター・マッソー)は、ヒルディ・ジョンソン(ジャック・レモン)の婚約者であるペギー(スーザン・サランドン)に向ってそう言い残し退散する。保護監察官と偽って彼女に近づき、ヒルディはシカゴを出れない露出魔だとだましたものの、ちょうどかかってきたヒルディの電話で嘘がバレたからだ。
ヒルディにしてみれば、彼女の叔父が経営する広告代理店に鞍替えし、ペギーとフィラデルフィアで結婚生活をする方が幸せだ。前妻との新婚旅行は放火魔の取材でブチ壊しにされ、クリスマスも結婚記念日も家にいたためしがない。「ぶんや」なんて二度とご免だ。
カンカン帽にステッキをまわしスーツでめかしこんだヒルディが古巣の記者クラブを訪れる。他紙の連中はいつものようにポーカーをしながら、翌朝7時に執行されるアール・ウィリアムズの絞首刑を待っている。
18カラットの指輪を見せびらかせ、気前よく酒をふるまう。にぎやかに軽口をたたき合い、別れを楽しむ。
ちょうどそのとき銃声が聞こえる。アールが脱走したという報が入る。記者たちは警察署長の部屋へ飛び出していく。残ったヒルディの後釜が何とも頼りない。電話口の編集長に焚きつけられ、ヒルディは独自に取材を始める。
精神鑑定の最中にアールが署長の拳銃を奪った、と報告したあと、ペギーが待つタクシーへ向う。
だが指輪を忘れたことを思い出し、ヒルディは記者クラブへ引き返す。
そこへ通気管にぶさがっていたアールがふらふらと現れる。獄中取材で顔馴染みだ。彼が気を失った隙に編集長へ連絡する。獄中結婚を噂された商売女のリンダが駆けつける。記者たちが戻る前にロールトップのデスクの中にアールを隠す。彼の居所を知ってると言ってリンダが絞首台のある中庭へ飛び降りる。記者たちが一斉にいなくなる。
駆けつけたウォルターは、他紙を出し抜く特ダネだと言ってアールの写真を撮らせる。
すっかり「ぶんや」に戻ったヒルディは、タイプライターで記事を書き始める。「フロント・ページ(第一面)」用の文句を次から次へと編集長が口走る。婚約者のペギーが来ても耳を貸さない。
ペギーから荷物が届く。我に返ったヒルディは、あわてて記者クラブを出ようとする。だが署長と記者たちが戻って来、アールを発見される。
囚人隠匿と拳銃不法所持で、二人は留置所に入れられる。ところが隣りの鉄格子の中に、死刑執行延期を通知する州知事の文書を携えた男がいる。シカゴ市長と警察署長はそれを隠蔽していたのだ。
フィラデルフィア行きの夜行列車を10分遅らせ、ヒルディがペギーのもとへと急ぐ。
別れ際、ウォルターは餞別と言って自分の名前が刻んだ懐中時計をヒルディにプレゼントする。列車が出発したあと、盗難届けを出す。
のちにウォルターの後釜となったのは、言うまでもなくヒルディである。
拳銃の暴発で黒人警官を射殺し、選挙の票稼ぎに絞首刑となっていたアール・ウィリアムズは、その後釈放され、モリーと結婚する。
(注釈2)
「ゾディアック事件」の唯一の容疑者であるアーサー・リー・アレンは、検察に殺人容疑で起訴される直前に、心臓発作で死亡する。
「アメリカ同時多発テロ事件」の首謀者とされるウサーマ・ビン・ラーディンは、2011年5月2日、パキスタン・アボッタバードの豪邸でアメリカ海軍に射殺される。
二つの事件が象徴することは、たとえ死亡したのが真犯人であっても解決したことにならないことだ。悲しいことに、一人が消えても次から次へと現れる、連続殺人鬼もテロリストも。
大変気の毒なのは、犠牲になった人たちだ。
一方、心ある人たちは、諦めずしぶとく事件に立ち向かっていく。何屋さんでも構わない。
人の世の健全さを保つということはそういうことではないだろうか。
注釈1、「ゾディアック」(監督:デヴィッド・フィンチャー)
アメリカ映画 2007年製作 原題:Zodiac
原作:ロバート・グレイスミス

メーカー:ワーナー・ホーム・ビデオ
メディア:Blu-ray
注釈2、「フロント・ページ」(監督:ビリー・ワイルダー)
アメリカ映画 1974年製作 原題:The Front Page
原作戯曲:ベン・ヘクト、チャールズ・マッカーサー

メーカー:紀伊國屋書店
メディア:DVD
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