ただそばにいるだけでいい。ただ語り合うだけでいい。
You Don’t Have To Say You Love Me
ただそばにいるだけでいい。ただ語り合うだけでいい。
introducing 「ヴァイブレータ」「恋人までの距離/ビフォア・サンライズ」
どうか、だまされたと思って聴いて欲しい。世界一セクシーな「この胸のときめきを」である。
サンレモ音楽祭で歌われたイタリア語の歌でも、それが気に入って英語で大ヒットさせたダスティ・スプリングフィールドの歌でも、それをカバーしたエルヴィス・プレスリーの歌でもない。
知る人ぞ知る黒人4人グループフローターズが1977年に発表したデビュー・アルバムに収録された歌である。
世界中の人が聴き憶えのある「この胸のときめきを」と大きく違うところは、とびっきり切ない歌い方をするだけではない。歌に至るピアノ前奏に乗せて「語り」が1分近く入る。I,I,I Need You,Baby I,I,I Want You,Baby てところがたまらない。
僕は15歳のときから語り付きのソウル・バラードが大好きだ。たいてい失恋の歌である。そんなヒット曲が収録されたアルバムを買い集めたものだ。果ては「SOUL ON」の紹介記事を手がかりに、そんなバラードが収録されたアルバムをむさぼるように探し求めた。
「愛してるなんて言わないでいい。ただそばにいて」
サビでそう歌っている。
ただそばにいるだけでいい。ただ「語り」合うだけでいい。そんな恋愛なんてできるのだろうか?
ハイホー、マンハッタン坂本です。
「食べたい。あれ、食べたい」
3月14日ホワイト・デー深夜。白ワインを買いに入ったコンビニで、31歳の玲(寺島しのぶ)は金髪の男と出会い、そう思う。シャンプーのいい匂いがし、釣りする人みたいでいい感じだったからだ。
買い物をして出てったあと、慌てて男の後を追う。4トン・トラックの運転席から男が手招きする。
助手席に乗り込んでまもなく警官が来る。アイドリングを注意され、移動するよう言われる。そのとき名前が岡部(大森南朋)だと分かる。
あなたにさわりたいと言う。ベッドスペースで抱き合うとき、唇みたいに綺麗だと言われる。そのとき名前を告げる。
一旦降りるが、道連れにしてと乗っけてもらう。フリーのルポライターだと明かす。
男がタイヤの山を荷台に載せたあと、濃厚なキスをする。
運転中、妻帯者なのにストーカーな女につきまとわれ殴った話を聞く。冷凍シャブを運んで稼いだ話を聞く。
無線交信を聞く。違法交信の話を聞く。交信隠語の意味を教えてもらう。
濡れてるのに体が拒否する。ばれたのでオナニーをしていると、男が入ってくる。
サングラスをして運転中、やくざをやっていた若い頃の話を聞く。ホテトルのマネージャーをやった話を聞く。
やっと自分のことを訊かれたので、「食べ吐き」の話をする。
交信中に遠くの電波が耳に入る。幻聴がひどくなり、吐き気をもよおす。
ガソリンスタンドで停めてくれる。飛び出して吐いたあと、自分の頭を叩き続ける。
ラブホテルに連れて行かれる。優しく扱ってくれるので、風呂の中で殴ってと言う。好きだから殴らないと言われる。
食堂で好きだと言う。妻帯もストーカーの話も嘘だと言われる。トラックの運転をさせてもらう。
出会ったコンビニにトラックが到着する。
降りたあと、男を見送りながら、食べるつもりが、食べられたんだと思う。
(注釈1)
「私は24時間、死を恐れてる」
ブダペストからパリに向うユーロトレインの中。フランス人女子大生のセリーヌ(ジュリー・デルピー)は、出会ったばかりのアメリカ人青年に向ってそんな告白をする。
席を移ってまもなく彼女の目の前をドイツ人夫妻がののしり合いながら通り過ぎいき、何を言い争ってたの?と声をかけてきたからではない。タイミングとしては悪くない。口喧嘩がうるさくて避難して来たわけだから。
「ひいおばあさんが霧の向こうに、静かに笑いながら立っていた」
彼が3歳のとき、姉が教えてくれた虹をつくろうと、太陽に背を向けホースの水をかけたときの話だ。
セリーヌはその話が気に入ったからだ。ホースを離した途端に死んだひいおばあさんの姿が消えて以来、死でさえ僕にとってあいまいなんだ、と言われれば決定的である。
ウィーンから飛行機で帰国する彼に、街を探検しようと誘われる。翌朝9時半に出発するまで夜通し歩く、君となら楽しい、と言われる。必死のたとえ話にほだされ承諾する。
一緒にプラットホームに出て名前を尋ねる。ジェシー(イーサン・ホーク)と彼が答える。
路面電車の中で、最初にセクシーだと感じたのは誰かと訊かれる。サマーキャンプで知り合ったイルカみたいな水泳選手で、お互い手紙で告白したのに再会しなかったと答える。
何が我慢できないかと訊かれ、ここから300キロ先のユーゴスラビアの内戦で大勢が死んでるのに人々が無関心だと答える。
黄昏の観覧車の中で、ジェシーが少年のようなキスをする。
カフェでジプシーに手相占いをしてもらう。ドナウ川沿いを歩きながら、僕のどんなところが頭にくる?と訊かれる。手相占いのときの態度で、ミルクセーキが欲しいのに買ってもらえないわがまま坊主みたいだと答える。
詩人に呼び止められ、何か言葉を選んでほしいと言われる。ミルクセーキと答え、即興の詩を朗読してもらう。
クラブでピンボールをしながら、半年前に別れた男の話をする。スペインにいる恋人を訪ねて即別れたので、2週間旅をしていたとジェシーが白状する。
セックスの話題になり、しばらく議論するが、キリがないのでやめる。
レストランで友人に電話する芝居をしながら、キュートで、綺麗なブルーの目で、ピンクの唇で、脂っぽい髪で、背は高いけど不器用で、私を見つめる目が好きだ、と告白する。
彼女はボッティチェリの天使そのもので、ものすごく頭がよくて、情熱的で美人だ、とジェシーが告白する。
「人はいつか死ぬ。だから時や瞬間が貴重なんだと思わないかい?」
船上レストランでジェシーがそう言う。私たちには今夜しかなくてもいい、と答える。
お互いに手を握り合う。今言えばつらくないと薦めるので、さよならを口にする。
バーで借りてきた赤ワインを飲み、公園で抱き合う。
夜が明ける。半年後の12月16日に再会しようと約束する。何度もキスして列車に乗り込む。
(注釈2)
9年後、セリーヌはやっとジェシーとパリで再会する。彼は小説家になっている。ファンの前で、次回作はポップソングが1曲流れる間に起きる物語にしたい、と彼が言う。
もしジェシーが「リアリティ・バイツ」に出てくるロック・シンガーなら、サビだけ歌ってほとんど語りだけのバラードにして欲しい。例えばこんな感じだ。
半年後に待ってたのに、どうして君は来なかったの?
必ずウィーンに来ると言ったじゃないか
変わったのは僕じゃない 君の方だ
君を捜しに駅まで戻った
ホテルの番号を書いた張り紙までした
電話がかかってきたけど、君じゃない
思い出と共に一人残された
僕の人生は死んだも同然 ないに等しい
残されたのは寂しさだけだ
愛してるなんて言わなくていい
ただそばにいて欲しかった
愛してるなんて言わなくていい
ただ語り合いたかった
ついでながら、語り付きの歌にハマったのは黒人のソウル・ミュージックが初めてではない。
イントロが目茶イカしたキーボードで始まり、途中でベースとドラムスがからみ、それからラップ調の「語り」がかぶる。合間でギターが泣き、サビでブラック・ロックになる。歴とした白人3人組が歌っているが、風貌がカントリー&ウエスタンの歌手みたいだ。
1970年に大ヒットしたスリー・ドッグ・ナイトの「Mama Told Me(not to Come)」である。
注釈1、「ヴァイブレータ」(監督:廣木隆一)
日本映画 2003年製作
キネマ旬報ベストテン主演女優賞、新人女優賞、助演男優賞、日本映画脚本賞受賞

メーカー:ハピネット・ピクチャーズ
メディア:DVD
注釈2、「恋人までの距離/ビフォア・サンライズ」(監督、脚本:リチャード・リンクレイター)
アメリカ映画 1995年製作 原題:Before Sunrise
ベルリン映画祭銀熊賞<最優秀監督賞>受賞

メーカー:ワーナーホームビデオ
メディア:DVD
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