天使と呼ばないで。

angel me / Eddi van W.
天使と呼ばないで。
introducing 「スクエアダンス」「ギルバート・グレイプ」「ラスト・ショー」
君は笑うかもしれないけれど、僕はいつも君のことを天使だと思っている。
世界の中心で、君は天使だ!と叫びたいくらいだ。
もちろん、まぶたの上に目を描いたメイクのせいではない。
ゴスロリ・ファッションに身を包んでいるからでもない。
妙ちきりんな体操ダンスが得意だからでもない。
山口百恵の「夜へ」が好きなせいでもない。
「修羅、修羅、阿修羅、修羅、慕情、嫉妬、化身、許して…行かせて…」
キワドイ歌詞だけれど、誘惑されるような天使ではない。山口百恵だって20歳ですでに菩薩様だ。彼女が歌えば言葉も浄化される。いやらしいのは作詞の阿木燿子の方だ。
僕は想像する。君はアメリカのスモール・タウンに現れる。翼を広げるにはうってつけの場所だ。
君はとびっきり美しく親切だ。
気の毒な人やうだつの上がらない人たちを大切に扱ってくれる。
ハイホー、マンハッタン坂本です。
「夜へ」(歌:山口百恵)
テキサスの田舎町バイブルベルト。
オカッパ頭にアラレちゃん眼鏡をしたジェマ(ウィノナ・ライダー)は、家の中でいつもつなぎのジーンズを履いている。
一緒に暮らすおじいちゃん(ジェイソン・ロバーズ)も同じ格好だ。
13歳になって初めて収穫祭の「スクエア・ダンス」をおじいちゃんが教えてくれる。おばあちゃんと踊った思い出があるからだ。
「明るい笑顔で位置について。手を組んで、左にひと回り、大きく回って、ホームへ戻る」
昔おじいちゃんと一緒にハーモニカを吹いた黒人のビーチャムが誤ってごみ捨て場に落ちる。
ジェマは必死で捜すが見つからない。町の住人も教会の人たちも諦めたので頭に来る。母親のいる都会へ行く。
物心ついて初めて一緒に暮らす母親(ジェーン・アレクサンダー)が美容院で髪をカールにしてくれる。
バイオリンを持ったローリー(ロブ・ロウ)がやって来る。いつもボタンを口にくわえている。喋り方がおかしい。母親から表に出るなと叱られる。知的障害があるらしい。
聖書を読みながら日向ぼっこしていると、ローリーが現れる。心優しいジェマは手のひらを広げ、彼の口からボタンを吐き出させる。
彼が結婚しようと言い出す。あなたのお世話をするわと言ってキスをしてあげる。
二人でこっそり入った美容院で、ローリーがバイオリンを弾く。それに合わせて軽やかにスクエア・ダンスをする。天使になったような気分だ。
だが障害事件に巻き込まれ、ローリーが施設に送られる。
石油の出ない土地を売りつけられた継父と母親との間に言い争いが絶えない。
ジェマは家へ帰る決心をする。母親の車で帰郷すると、ビーチャムが生きている。
彼のハーモニカに合わせて、おじいちゃんと一緒にスクエア・ダンスをする。
(注釈1)

アイオワの田舎町エンドーラ。
おばあちゃんの運転するキャンピング・カーが故障し、ベッキー(ジュリエット・ルイス)は見知らぬ土地に降り立つ。自転車で繁華街に出ると、住人たちが一様に高い給水塔を見上げている。少年が梯子を登りながら何やら叫んでいる。
下から拡声器を使って青年が呼びかける。なかなか降りてこない。「タンクが爆発、ドカーン」と言ってやっと降りてくる。
小さな食料品店で買い物をする。先日の青年「ギルバート・グレイプ」(ジョニー・デップ)が弟のアーニー(レオナルド・ディカプリオ)を連れて配達してくれる。6日後に18歳の誕生パーティだとアーニーが言う。招待してないとも言う。とがめるギルバートに対し、正直なのよと返す。
ギルバートが突然キャンピング・カーを訪れる。毎度のことながら、知的障害のある弟が言うことを聞かないので、頭に来て家を飛び出してきたのだ。
あなたの家を見たいと言うと、散歩しながら連れて行ってくれる。夕陽の中に小さくたたずんでいる。
父親が建てたその家に、弟と妹と姉、そして17年前に夫が首吊り自殺して以来、浜に打ち上げられた鯨のような巨体となった母親がいるという。
後日ギルバートにキスをしたあと、ベッキーは母親に会わせてほしいと言う。
アーニーが泣きながらかけ込んでくる。風呂を嫌がったため、勢いギルバートに殴られたからだ。
ベッキーは優しく介抱する。水を怖がるアーニーを川で遊ばせる。
弟が去ったあと、その様子を見ていたギルバートと一夜を共にする。
翌日、アーニーの誕生パーティを訪れ、母親に会わせてもらう。
ギルバートと別れのキスをする。言葉の出ない兄に向かってアーニーが言う。
「“ありがとう”と言うんだよ」
一年後、キャンピング・カーでベッキーが戻って来る。待ちかねたようにギルバートとアーニーが乗り込んでくる。
(注釈2)
テキサスの田舎町アナリーン。
映画館とダイナーと玉突き場のオーナーであるサム(ベン・ジョンソン)のもとで使い走りをするサニー(ティモシー・ボトムズ)は、ビリーを見つけると帽子のつばを後ろ向きにかぶせてやる。
口のきけないビリーは、砂嵐が来てもいつも道の真ん中をホウキで掃いている。
クリスマス・パーティの最中、親友のデュエーン(ジェフ・ブリッジス)が腹いせにビリーをからかう。つき合っているジェイシー(シビル・シェパード)に抜け駆けされたからだ。
加勢をした仲間と共にサムの店から締め出される。だが心からサムに謝り、許してもらう。
バスケットボールのコーチに頼まれ、サニーは彼の女房を車で診療所に連れて行く。それがきっかけで入りびたりとなる。40代のルース(クロリス・リーチマン)との仲が公然の秘密となる。
サムが突然死去する。サニーは玉突き場をもらい受ける。ビリーの面倒も引き継ぐ。
アル中気味の人妻ロイス(エレン・バースティン)に向かって、サニーはしみじみと言う――「サムの死で何もかも変わった」
「ライオンのサム」と初めて呼んだのは彼女だった。サムと素っ裸で泳いだのも彼女だった。同級生のジェイシーの母親でもある。
デュエーンがジェイシーとの初体験に失敗する。高校を卒業して二度目はうまくいくが、その後無視され町を出る。
ジェイシーに誘惑されたサニーがデュエーンと喧嘩し大怪我をする。勢い彼女と駆け落ちをするが、彼女の両親に連れ戻される。
朝鮮戦争に出征するデュエーンと一緒に閉館する映画館へ入る。
「ラスト・ショー(最終上映)」は、ジョン・ウェイン主演の「赤い河」である。
砂嵐の中、ビリーが車にひかれ命を落とす。
ひどいショックを受けたサニーは、3ヶ月ぶりにルースの家を訪れる。
「ビリーの死で、すべて水に流せと言うの?」
放心状態のサニーに向かって、声を荒げてルースがなじる。
サニーは左手をルースの両手に乗せる。ゆっくりと彼女の右手に指をからませる。ルースの表情が和らでくる。
(注釈3)
君は笑うかもしれないけれど、誰もが天使になれるとは限らない。
天使は、聖書を読む少女とは限らない。キャンピング・カーで旅する女子とは限らない。我慢強い中年女とは限らない。
天使は、頑固なおじいちゃんとは限らない。知的障害のある少年とは限らない。不器用な青年とは限らない。
天使は、人類に奉仕してくれるとは限らない。
天使は、人類を励ましてくれる存在だと思う。
注釈、相米慎二監督の「ラブホテル」(1985年製作)を知らない読者のために。
タクシー運転手をする村木(寺田農)の目の前を若い女が通る。2年前に小さな出版社を潰したとき、この世の見収めにと買ったホテトル嬢の名美(速水典子)である。
マンションの前で待っていると彼女が出てくる。村木は素早く自分のタクシーに乗せる。いい曲ね、と彼女が言う。ラジオから山口百恵の「夜へ」が流れている。
後日、名美から呼び出される。2年前の夜のことを話す。彼女は恐喝されているらしい。村木は信じられないといった顔でこう言う――「私には、天使ですよ」
注釈1、「スクエアダンス」(監督:ダニエル・ペトリ)
アメリカ映画 1987年製作 原題:Square Dance

メーカー:日本コロムビア
メディア:DVD
注釈2、「ギルバート・グレイプ」(監督:ラッセ・ハルストレム)
アメリカ映画 1993年製作 原題:What’s Eating Gilbert Grape

メーカー:角川エンタテインメント
メディア:DVD
注釈3、「ラスト・ショー」(監督:ピーター・ボグダノヴィッチ)
アメリカ映画 1971年製作 原題:The Last Picture Show
米アカデミー賞助演男優賞(ベン・ジョンソン)、助演女優賞(クロリス・リーチマン)受賞
ゴールデングローブ賞助演男優賞受賞
英アカデミー賞助演男優賞、助演女優賞、脚本賞受賞

メーカー:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント
メディア:DVD
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