君の音色に恋してる。

Old School: Listening to the #Crew96 pre-game on the radio. / tlillis4
君の音色に恋してる。
introducing 「アメリカン・グラフィティ」「ラジオ・デイズ」
あらゆる意味で、女性の音色は魅惑的だ。
楽器を奏でることは苦手だが、音色に耳を傾けることは好きだ。
とりわけ女子の低い声が好きだ。風邪をひいて枯れた声ではない。歌いすぎてつぶれたような声ではない。自然に低い声がいい。
往年のグループ・サウンズの中でも人気ナンバーワンのザ・タイガースが40年ぶりに復活し、コンサート活動をしている。
和久井映見のデビュー映画「ぼくと、ぼくらの夏」のサブタイトルをご存知だろうか。「タイガース・メモリアルクラブバンド」という。沢田研二も彼女の父親、テキ屋の親分役で出演している。
映画全編に流れるのは、タイガースのヒット曲である。グループ・サウンズ全盛期の人気ボーカルたちがこの映画のために集結し、歌っている。
その映画に出演したころの和久井映見は、今よりずっと低い声だった。彼女のファンになったのは、それがきっかけだと言っていい。
(注釈1)
プロのDJに限らず、タレントでも歌手でもいい。ラジオから女性の魅惑的な低い声が聞こえてくると、僕は嬉しくなる。
ハイホー、マンハッタン坂本です。
後にも先にも、ラジオから聞こえてくる声の音色に、語り口に、恋をしたのは一度だけだ。
1973年、彼女はアルバイトの短大生だった。オーディションで選ばれた大学生が日替わりで自由気ままにしゃべる番組で、週に一回登場した。
女子にしては低い声音で、彼女はとても気さくで愉快なおしゃべりをする。初めてパチンコをやった話を方言丸出しでしゃべったり、今日は話すことがないからと言って突然「花嫁人形」を歌い出したり。
ある日彼女は、自宅近くに大学生が沢山下宿してるんだけどと前置きして、パンティを盗まれた話をした。そして不思議そうにこう言った――「どうして母のは残ってたのかしら」
彼女が出演する番組には、10秒間言いたい放題のコーナーがある。街のいろんな場所に行って録音してきた声を紹介するのだ。
僕が通う予備校の近くに番組がやってくる。そんな情報が入り、僕はナショナル・ショールームで彼女を待ちうけた。声しか知らないのに彼女を発見できるのか? 淡いピンク色のスーツを着た美人がマイクらしきものを持っている。
そして気づくと僕はわめいていた。言いたい放題のブースに設置されたマイクに向って、大学に合格したい、と。
ピンク色の美女がくすくすと笑っていた。
1962年夏。故郷を旅立つ前日になっても、カート・ヘンダーソン(リチャード・ドレイファス)は煮え切らない。東部の大学へ通うための2000ドルの奨学金を手にしてもまだ迷っている。一緒に田舎を脱出できるチャンスだぞと親友のスティーヴ(ロン・ハワード)が鼓舞する。彼は妹のローリー(シンディ・ウィリアムズ)の恋人でもある。
新入生の歓迎ダンス・パーティへ向う妹の車が信号待ちで停車する。カートは後部座席に便乗している。
フランキー・ライモン&ティーンエイジャーズの「恋は曲者」が流れている。そこへ56年型の白いサンダーバードが後から並ぶ。運転するブロンドの美女がカートの方を向き、ニコリと笑う。カートも笑みを返す。彼女が笑顔で声をかける。慌ててウィンドウを下げたカートは、何て言ったんだと声を張り上げる。だが彼女の車はG通りへ右折してしまう。
「幻の女神を見た」
カートがそう言っても、運転するスティーヴは追いかけてくれない。アイ・ラブ・ユーと言ったんだぞと訴えても耳を貸してくれない。
サンフランシスコ郊外の町。そのまた町外れに海賊放送の中継局がある。カートはそこへDJのウルフマン・ジャックを訪ねる。
中から髭面の男が招き入れる。冷蔵庫が壊れてアイスが溶けかかっているので食べないかと言う。ウルフマン本人でないと否定し、男は録音したテープをかける。
彼に代わってメッセージを伝えよう、とメモを受け取ってくれる。
カートが局を出ようとしたとき、マイクに向ってだみ声の男が喋り出す。ウルフマン本人だったのだ。
友達が君と話したいそうだ。ダイヤモンド3132に電話してくれ、と言ってくれる。それからプレゼント曲のブッカー・T&MG’Sの「グリーン・オニオン」が流れる。
明け方、公衆電話ボックスの呼び鈴が鳴り響く。プラターズの「オンリー・ユー」が流れている。
受話器をとると、いとおしい女神の声がカートと呼ぶ。どうして自分のことを知っているか、名前さえ教えてくれない。3丁目を流してる、としか彼女は答えてくれない。
飛び立ったプロペラ機の窓からカートが見下ろす。白いサンダーバードが追走している。
(注釈2)
「恋は曲者」(歌:フランキー・ライモン&ティーンエイジャーズ)
かつて娯楽の中心がラジオだった時代がある。
1922年生まれのカート・ヴォネガットが少年の頃、アメリカは大不況で「笑い(コメディ)」全盛の時代だった。彼はラジオから流れてくるコメディアンの声に夢中になった。
1935年生まれのジョー(セス・グリーン)は、活劇ドラマ「覆面の騎士」に夢中である。秘密指輪を手に入れるため、ユダヤ人国家建設のための献金をちょろまかす。だが先生に見つかり、先生から父親から母親から順々にド突かれる。
ジョーの家族は貧乏なユダヤ系の大所帯である。祖父母と両親、母親(ジュリー・カブナー)の姉家族3人、未婚の叔母ビー(ダイアン・ウィースト)と同じ屋根の下で暮らす。
ビー叔母は男運が悪い。デートの最中に車がガス欠となり、霧の中で臨時ニュースを聞く。「火星人襲来」である。H・G・ウェルズ原作、オーソン・ウェルズ演出のドラマを真に受けたデートの相手に置き去りにされる。
おつむのてっぺんから突き抜けるようなかん高い声を出すサリー・ホワイト(ミア・ファーロー)は、ラジオ・スターを夢見てブロードウェイでアルバイトに励んでいる。
ギャングが経営するナイト・クラブでクローク係をしているとき、ボスを射殺した殺し屋(ダニー・アイエロ)に彼の家まで連れて行かれる。弾切れになり殺されなかったからだ。
殺し屋の母親は、同郷のサリーに夕食をご馳走する。ラジオに出れるなら何でもする、と彼女はかん高い声で言う。芝居でも天気予報でもインタビューでもダンスでも。
パアだから危険がないと踏んだ二人は、彼女の命を助ける。おまけに、ラジオに顔がきくという「いとこ」に口をきいてやる。
ラジオドラマで、今まさに彼女が初めて台詞を言おうとしたとき、真珠湾攻撃のニュースが入る。
米軍サービス機関で歌ったあと、「リラックス」という名の下剤のCMソングをかん高い声で歌う。
うだつの上がらない彼女は、発声法の勉強を始める。数ヶ月間の努力の末、なまりがなくなり、以前より低く落ち着いた声になる。
ブロードウェイのつき合いが役に立ち、「粋なおウワサ」でラジオ・スターの仲間入りを果たす。
「覆面の騎士」の声優と共に、サリーはナイト・クラブを訪れる。無名の頃、タバコ売りをしていたところだ。ブロードウェイのネオンサインが真近で見れる屋上へ誘う。名士たちがこぞってついて来る。
カクテル・グラスを片手に新年を迎える。太平洋戦争が終る前年だった。
「ラジオで聞いた懐かしい声。あの声この声が次第に薄れて行く」
(注釈3)
「ハーイ、こんばんは。なんてゾクゾクするような声で始めてさ、途中でかったるいムード音楽なんかかけながら陳腐極まりないポエムなんか朗読しちゃって、揚句にいかにもお名残惜しそうに、今夜はこれでおしまいなんてヨダレが出そうな甘い囁きをつぶやくわけでしょうが」
70年代前半に人気を誇ったパーソナリティの落合恵子(愛称、レモンちゃん)を揶揄する台詞である。シネワンの間借人が書いたラジオ・ドラマの中に登場する。
玲子が深夜放送のDJに抜擢されたことに対し、どうせそんな真似をするんだろ、と明がからかい半分に言ったやつだ。
僕は女性のかん高い声が苦手だ。
何故かと訊かれればこう答える。「消臭力」と歌って笑かしてくれるのなら、ヘビメタ・バンドより圧倒的にボーイ・ソプラノの方がいい。
1995年、ウディ・アレンと同じニューヨーク出身のウルフマン・ジャックが57歳の若さで亡くなった。あの強烈なだみ声は不滅である。
注釈1、「ぼくと、ぼくらの夏」(監督:小平裕)
日本映画 1990年製作
原作:樋口有介

メーカー:バンダイ・ビジュアル
メディア:VHS
注釈2、「アメリカン・グラフィティ」(監督:ジョージ・ルーカス)
アメリカ映画 1973年製作 原題:American Graffiti

メーカー:ジェネオン・ユニバーサル
メディア:Blu―ray
注釈3、「ラジオ・デイズ」(監督:ウディ・アレン)
アメリカ映画 1987年製作 原題:Radio Days
英アカデミー賞衣装デザイン賞受賞

メーカー:20世紀フォックス・ホーム・エンターテインメント・ジャパン
メディア:DVD
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