懺悔せずにいられない。

Pray for Me / PJFurlong06
懺悔せずにいられない。
introducing 「マグノリア」「秘密と嘘」
2011年1月、横澤彪氏が亡くなった。彼はフジテレビのプロデューサー時代、女子アナに向かって電波芸者に徹すべきだと言ったという。
彼がプロデュースした「オレたちひょうきん族」では、番組ラストの定番コーナー「ひょうきん懺悔室」に神父のいでたちで現れ、NGを出した連中を呼び出し裁いた。
出演者やスタッフはもちろん、番組に関係したすべての者が容赦なく裁かれた。彼らは必死で許しを乞うが、たいていバケツの水をかぶる。ほとんどぬるま湯だったが、人によっては何杯もかけられ、冷水だったこともあるという。
濡れた衣装のクリーニング代は自腹だが、人生で犯したあやまちをバケツ一杯の水をかぶるだけで許してもらえるなら楽勝だと思う。僕の場合、しばらく鼻風邪が治らないだけだ。
エンターテインメントの世界では、懺悔ですら笑いがとれればOKである。
ところがリアルな世界は「笑って許して」では済まされない。
ハイホー、マンハッタン坂本です。
65歳のアール・パートリッジ(ジェイソン・ロバーズ)は、脳と肺を癌に侵され死線をさまよっている。彼の会社は、ロサンゼルスで30年も続く超人気クイズ番組を制作している。今でも話題の的である。
後妻のリンダ(ジュリアン・ムーア)が薬を取りに出ていったあと、鼻に酸素吸入の管を差した痛々しい姿で、看護人のフィル(フィリップ・シーモア・ホフマン)に息子のジャックを捜してくれと頼む。別名フランク・マッキーという。
フィルは「ハッスル」を取り寄せる。彼が「誘惑してねじ伏せろ」の著者であることを確認し、通販の受付に電話をする。必死で事情を説明し取り次いでほしいと頼みこむ。
強引に女をものにするノウハウを伝授するフランク(トム・クルーズ)は、セミナーの合間にTVのインタビューを受けている。女性インタビュアーから経歴詐称を指摘される。父親は家を出、癌と戦う母親を看病し続けて1980年に亡くした、と。彼はすっかり沈黙する。
フランクのブレーンがやっと耳を貸す。その直後にリンダが戻ってき、フランクが電話に出るとフィルが伝える。彼女は勢い電話を切る。朦朧としたアールに寄り添い、別れを言う。フィルに殴ったことを謝り、家を出る。今は心から愛しているものの、財産目当てで結婚した自責の念にかられたからだ。
アールが目覚め、フィルに向って許されない過ちを途切れ途切れに告白する。23年も連れ添った妻のリリーを裏切り続け多くの女と寝た、と。14歳の息子が母親を看取った、と。
父親が会いたがっていると知ったフランクは、昼休み後のセミナーを心ならずもぶち壊しにする。その夜、父親の家を訪ねる。
アールは管を外され、液体モルヒネで意識をなくしている。フランクが恐る恐る父親の部屋に入る。ベッドの上の姿を見た途端、罵倒する。死なないでくれ、クソッタレのバカ野郎!と泣きながら叫ぶ。
父親の顔を覗き込む。おぞましい蛙の雨が降ってくる。その音でアールが目覚める。目の前に息子がいることに気づき、そのまま息を引き取る。
「過去を捨てたと思っても、過去は追ってくる」
(注釈1)
SAVE ME(歌:エイミー・マン)
ロンドンの下町に住むシンシア(ブレンダ・ブレッシン)は、生まれて40年以上、一度も結婚せず親の家を出たことがない。工場で働いているとはいえ、長い貧乏暮らしで心がすさんでいる。唯一頼れるのは巨漢の弟モーリス(ティモシー・スポール)だけである。
出張撮影で結婚式場へ行くとき以外の彼は、自分の写真スタジオでほとんど毎日、幸せそうな人々の写真を撮っている。つれあいはいるが、子供がいない。久々に姉を訪ねると、強く抱きしめてと言われる。
シンシアには、もうすぐ21歳になる無愛想な娘がいる。彼女が21歳のときに生んだ子で、彼女以外に父親を知らない。互いに煙草をふかしながらたわいない会話をする。ロクサンヌにつきあっている男がいるが、まともに紹介してもらえない。避妊のことで言い争いになり、娘が飛び出す。
そんなとき、若い女から電話がかかってくる。礼儀正しい言葉遣いで、あなたはシンシア・ローズ・バーリーかと尋ねられる。エリザベスは?と訊くので母は亡くなったと答える。赤ん坊の方だと言われ、卒倒しそうになる。彼女が16歳のときに生んで、顔を見ずに里子に出した娘の名前だ。声の主は本人で、亡くなった里親からもらった名前はホーテンスと言う。
地下鉄の駅前で待ち合わせする。白人のシンシアに黒人の娘が声をかける。出生証明書を見せられるが、信じられない。
ホーテンス(マリアンヌ・ジャン=バチスト)に促され食堂に入る。役所の間違いだと言い張る。書類に書かれた自分のサインを見る。シンシアはふいに思い出す。もしやあのときの……。
自分が恥ずかしいわ、私を許して、と涙ながらに謝り続ける。
会えるだけで満足だとホーテンスが言ってくれる。シンシアは着飾って出かける。血を分けた娘とデートしている気分だ。乾杯をする。手相を見てあげる。遅ればせながら誕生日プレゼントをする。
弟の新居で行うロクサンヌの誕生パーティに、シンシアはホーテンスを招待する。
モーリスと妻のモニカの家に、シンシアとロクサンヌと彼女のボーイフレンドが揃ってやってくる。スタジオで働くジェーンも来る。最後に、工場で一緒に働く友人としてホーテンスが訪れる。
庭の小さなテーブルを囲み、バーベキューを楽しむ。
バースデーケーキの灯をロクサンヌが吹き消す。幸せの笑みがこぼれる。
ホーテンスがいたたまれずトイレに行く。シンシアが酔った勢いで、実の娘だと告白する。ロクサンヌは驚き、家を飛び出す。モーリスとボーフレンドにさとされ、家に戻る。
「君は勇敢な女性だ。君は苦痛を覚悟で真実を求めた。君を尊敬する」
いがみ合う女たちを制止したモーリスは、黙って聞いていたホーテンスに向ってそう言う。
シンシアは秘密にしてきたことをすべて告白する。
我が家のガラクタを眺めながら、私をどう紹介するの?とホーテンスがロクサンヌに尋ねる――「真実を話すのが一番ね。誰も傷つかない」
(注釈3)
井筒和幸監督は尊敬する映画監督の一人である。僕は平和主義者なので喧嘩は嫌いだが、彼が監督した作品に喧嘩映画の秀作が多い。カッコつけたガキのアクション映画が多い中、ガキはガキなりにきちんと人間として描いているからだ。
おそらく井筒監督は苦笑いをしているにちがいない。彼の作品で好演したタレントが次々と騒ぎを起こしているからだ。「パッチギ!」の沢尻エリカはもとより、彼女の兄を演じた高岡蒼佑(出演当時の漢字)に続き、「ガキ帝国」の島田紳助が芸能界を引退した。
(注釈3)
僕のタレントに対する関心は、映画の中で演じたキャラクターだけである。当然のことながら映画の良し悪しとタレントの評判とは無関係だ。たとえこのまま沢尻エリカが映画に出なくとも、「パッチギ!」は彼女の最高傑作であり、井筒監督の最高傑作に変わりない。
だが監督自身、本当はどう思っているのだろうか? 頭突き(パッチギ)を食らわせたい気分か、乗り越えろ!(パッチギ!)と願っているのか。
それとも「岸和田少年愚連隊」のナイナイは大丈夫かあ?
亡くなった横澤彪さんなら、「ひょうきんベストテン」の司会をしていた島田紳助を「ひょうきん懺悔室」に呼び出して、バケツ何杯分の水をぶっかけるのだろうか。ぬるま湯でなく氷水になるに違いない。何せ横澤さんはフジテレビにも吉本興業にも在籍した人だから。
注釈1、「マグノリア」(監督、脚本:ポール・トーマス・アンダーソン)
アメリカ映画 1999年製作 原題:Magnolia
ベルリン国際映画祭金熊賞受賞
ゴールデングローブ賞助演男優賞(トム・クルーズ)受賞

メーカー:ポニーキャニオン
メディア:DVD
注釈2、「秘密と嘘」(監督、脚本:マイク・リー)
イギリス映画 1996年製作 原題:Secrets and Lies
カンヌ国際映画祭パルムドール大賞、主演女優賞、国際映画批評家協会賞受賞
ゴールデングローブ賞主演女優賞受賞
イギリスアカデミー賞イギリス映画作品賞、主演女優賞、脚本賞受賞

メーカー:ハピネット
メディア:DVD
注釈3、「ガキ帝国」(監督:井筒和幸)
日本映画 1981年製作

メーカー:パイオニアLDC
メディア:DVD
コメント ( 1 )
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面白かった。トム・クルーズがそんな作品に出演してたとは当然知らなかった。トップのコメントで思い切って紳助に触れて欲しかった。横澤氏だけでは若い人達はピンと来ないかと思う。しかし、「ひょうきん懺悔室」は今見ると、人間の醜態の部分を上手くネタにしてて、実に笑える!紳助の才能がもう芸能界で活かされないのは損失としてあまりにデカイ。