手間暇かけた変身なんて嫌だ!

Tokyo HDR – 25 / Kabacchi
手間暇かけた変身なんて嫌だ!
introducing 「ターミネーター2」「カメレオンマン」
別に毛嫌いしているわけではないけれど、リアルな舞台で歌舞伎を見たことがない。
映画やTVドラマに出演しているときの歌舞伎役者は、顔を見れば名前がすぐに分かる。時代劇に出てもたいてい分る。「猿の惑星」くらい特殊メイクでもしない限りだいだい分かる。
だが彼らが本業である歌舞伎座の舞台に立ったとき、誰が誰なのかさっぱり分からない。
イッセー尾形のひとり芝居のように舞台のそでで、次に演じる人物の髪型やメイクを変え、衣装や小道具を換えてくれれば、声音を替えたくらいで間違えないだろう。
何が面倒臭そうかと言って、歌舞伎の登場人物になりきるために、「猿の惑星」の猿人になりきるために、手間暇かけて変身することだ。
変身願望がないわけではない。
その場で瞬間的に別人になれれば、その気になるかもしれない。
ハイホー、マンハッタン坂本です。
2029年のロサンゼルスからタイムマシンで送り込まれたスカイネットの最新型ターミネーター・T-1000(ロバート・パトリック)は、液体金属で出来ている。手に触れるものなら何にでも変身できる。
ただし、自分のサイズにしか変身できない。部品や薬品を必要とする複雑な機械には変身できない。小さくなれないが、身体の一部をナイフのように変化させることができる。
難点は、自分がコピーしたオリジナルを殺害する癖があることだ。
「君はもうターミネーターじゃない。人を片っ端から殺そうとするのはよせ」
T-1000のターゲットである10歳のジョン・コナー(エドワード・ファーロング)は、35年後の自分から今の自分を守るように命令された旧型ターミネーター・T-800(アーノルド・シュワルツェネッガー)に向ってそう命令する。命令に服従するように再プログラムされているからだ。
手始めにTー1000は警官に変身する。T-800がショットガンでぶっ放す弾丸のお陰で身体に穴が空くがすぐに修復する。運転するトラックがコンクリートの橋に激突しぺしゃんこになるが、すぐにもとに戻る。
ジョンの養母に変身しジョンからの電話に出るが、小うるさい養父をナイフで殺害する。
ジョンの実母サラ・コナー(リンダ・ハミルトン)が収容されている警察病院へ行き、警備員に変身し病棟に侵入する。自力で脱出したサラを発見する。直前に邂逅したジョンとT-800もそばにいる。3人を脱兎の如く追いかける。T-800がぶっ放した弾丸で頭が二つに割れる。エレベーターに飛び乗り、逃げる3人に向って天井から刃を突き刺す。弾丸を受け穴だらけになりながらパトカーの3人を追うが取り逃がす。
白バイに乗ってサイバーダイン社へ駆けつける。特殊企画部長のマイルズ・ダイスンとともに3人に最新のコンピュータ素子の研究室を破壊され、ロサンゼルス警察が応戦している。3人が大型トラックで脱出したので、警察ヘリのパイロットに変身し追跡する。陸と空との間で激しい銃撃戦を繰りひろげた後、トラックの急停車でヘリをぺしゃんこにされる。
小型トラックで逃走する3人を液体窒素を積んだトレーラーで追撃する。トラックから乗り込んだT-800にマシンガンで撃ち込まれトレーラーを横転させられる。製鉄所の前でもろに液体窒素をかぶり、T-1000はコチコチとなる。銃弾を撃ち込まれボディが粉々に飛び散る。だがバラバラになったパーツが溶鉱炉の熱で溶け合体する。
製鉄所の中で激しい攻防を繰り返し、T-800に致命的なダメージを与える。深手を負わせたサラ・コナーに変身しジョンに近づく。うしろから本物のサラに攻撃されてもひるまない。復活したT-800にグレネードランチャーで爆破され、溶鉱炉に落下する。コピーした1994年の人物が入れ替わり立ち替わり現れ、もがくうちに原型を失う。
ジョンの命令に背き、T-800も静かに溶鉱炉に姿を消す。
(注釈1)
のちにマンハッタン病院の新進気鋭の精神科医ユードラ・フレッチャー(ミア・ファーロー)によって「人間カメレオン」と命名されたユダヤ人のレナード・ゼリグ(ウディ・アレン)の特異現象を初めて目撃したのは、スコット・フィッツジェラルドだった。
1928年、社交界の花形で美術界のパトロンであるヘンリー・サットン夫妻のロングアイランドの屋敷で開かれたパーティのときである。
彼はそのときの様子をこう書き残している――「明らかに裕福な貴族に見える人物が社交界の中で実に親しげに話している。共和党のクーリッジ大統領についても上品なボストン・アクセントで褒めそやした。ところが1時間後、同じ男が自分のことを民主党員と言い、貴族とは思えない下品な言葉つきで台所の男と話している」
ノーベル賞作家のソール・ベローによると、人並みはずれた順応性を持つゼリグは「極度の妥協主義者」だったと言う。
フレッチャー博士が催眠術をかけてレナードから聞き出したことによると、小学校のデキる生徒からメルヴィルの「白鯨」を読んだかと聞かれたとき、読んだふりをしたのがきっかけだと言う。彼が周りに同化することは、身の安全を守るためであり、周りから好かれるためだったのだ。
レナード・ゼリグは実に様々な人物に変身した。最初に身体が変化したのは聖パトリックの日で、緑色の服を着ずにバーに入ってにらまれたので、アイルランド人になったと言う。その後、ニューヨーク・ヤンキーズのルーキー、マフィアの幹部、黒人のトランペッター、中華街の中国人に変身する。
マンハッタン病院に連行されてからは、医者たちが見守る前で完璧な精神科医となる。公開実験の場でフランス人や中国人になり、肥満男と対談したときは体重が115キロまで急増した。
いかがわしい興行師をボーイフレンドに持つ姉のルースに引き取られてからは、見世物としてインディアンになり、パリの舞台ではユダヤ教のラビとして感動的な説教をする。
興行師と闘牛士と姉の三角関係で3人とも命を落とし失踪してからは、バチカン法王の側近としてサンピエトロ広場の前に現れ、アメリカに強制送還される。
その間、カメレオン・ジョークやダンスが流行り、「カメレオンの日々」「爬虫類のすてきな目」などカメレオン・ソングがヒットする。ゼリグを商標にしたペン、時計、玩具、絵本、エプロン、耳覆い、ゲーム、有名なゼリグ人形が作られる。人間カメレオンを見に国中から集まって来、パンフレットが飛ぶように売れる。
お陰で、ヘビー級チャンピオンのジャック・デンプシーやクーリッジ大統領と面会し、ジョセフィン・ベイカーにカメレオン・ダンスを踊ってもらい、コール・ポーターからひいきにされる。急進主義者からは資本家の手先として糾弾される。
フレッチャー博士の田舎の家で、「白い部屋の実験」が隠しカメラによって撮影された。
昏睡状態にいるレナードは、とことん本音を吐いた。
「料理はヘタだ。だが愛してる。ずっと一緒に……パンケーキなしで」
博士の惜しみない愛情と田舎での生活が功を奏し、レナードは次第に個性を発揮するようになる。彼を訪れた医師団の前で同化しなかったばかりか、意見の違う医師に向っていきなりクマデで殴りかかるほどである。
二人は婚約を発表し時の人となる。だがほどなくして、変身していたときに起こした重婚、姦通、自動車事故、盗作、怠慢、家屋損傷が明るみに出る。国中で訴訟の嵐が吹き荒れる。
再び人に好かれ受け入れられ同化したいと願うようになったレナードは、姿をくらます。
ナチス・ドイツの突撃隊員の姿をした彼を発見した博士は、ベルリンへ飛ぶ。
演説するアドルフ・ヒトラーの後ろに座ったレナードに向って彼女が手を振ると、レナードはたちどころに我に返り手を振る。大混乱となり、親衛隊に追われる。
意識を失った博士を乗せ、レナードは一度も飛ばしたことのない飛行機を操縦する。追撃機を振り切り、宙返り飛行を重ねながらノンストップ大西洋横断飛行を成功させる。
ニューヨークの人々は、博士と人間カメレオンを熱狂的に迎える。二人はオープンカーに乗り凱旋パレードをする。過去の犯罪に対し大統領特赦が出る。
「チェンジングマン」というタイトルで映画化までされる。
晴れてレナードはフレッチャー博士と結婚し、変身することなく幸せに過ごす。
彼の最後の言葉はこうである――「最近『白鯨』を読み出したのに……」
(注釈2)
人間に対して悪意を抱いているか、好意を抱いているかで、変身ストーリーは全然違ったものになる。
当然のことながら僕らは、T-1000やレナード・ゼリグにように瞬間的に変身ができない。メイクや衣装などで変身した気分にはなれる。心の中まで変身できるかどうかは分からない。
人々の価値観の違いを表すシンボルだったレナード・ゼリグのように、自分を取り巻く環境に順応するために、自分の安全を守るために、周りから好意を持たれるために、自分自身を変える必要はない。ヒーローになる必要もない。
ひとりの個性ある人間として生きていければいい。
ただ、自分の弱点を逆に強みにすることはいいことだ。前向きに生きていける。
当たり前のことだが、変身するのは人間やアンドロイドだけではない。
歌舞伎役者が自在に変身する銀座・歌舞伎座が4度目の変身を遂げた。3年がかりである。
注釈1、「ターミネーター2」(監督、脚本:ジェームズ・キャメロン)
アメリカ映画 1991年製作 原題:Terminator 2:Judgment Day
米アカデミー賞視覚効果賞、メイクアップ賞、音響効果賞、録音賞受賞

メーカー:ジェネオン・エンタテインメント
メディア:Blu―ray
注釈2、「カメレオンマン」(監督、脚本:ウディ・アレン)
アメリカ映画 1983年製作 原題:Zelig

メーカー:20世紀フォックス・ホーム・エンターテインメント・ジャパン
メディア:DVD
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