宙ぶらりんな親父でも、息子は育つ。

Empire Valentine
Empire Valentine / Alan Miles NYC

宙ぶらりんな親父でも、息子は育つ。 
introducing 「クレイマー、クレイマー」「めぐり逢えたら」「シンデレラ・リバティー」
僕の親父は昔、総理大臣だった頃の田中角栄に似ていた。
ニュース映像でおなじみの不敵な面構えとダミ声が似ていたわけではない。頭の形と髪型、つまり額の広がり具合と薄毛の程度。横顔でひょいと右腕を上げて挨拶すればそっくりだった。
当時十代の末期だった僕がその後に親父から引き継いだものは、別れ際に腕をふり上げるクセと薄毛である。
蛙の子は蛙と言うか、親のいいところも悪いところも似て来るものだ。
腕をふり上げるクセがいいところかどうかは分からないが、僕に息子がいたらと思うとぞっとする。そしてカミさんに逃げられたときのことを想像する。ジタバタしていて息子に構ってやれない。悪いクセが大挙して出てくるにちがいない。
だが若くて可能性にあふれた息子は、意外にタフだ。父親ほどジタバタしないし、立ち直りも早い。そして泥酔した父親を介抱してくれる。
ハイホー、マンハッタン坂本です。


透明のボールに卵を割って黄身を入れる。息子がホークでかき混ぜる間、父親は冷蔵庫から牛乳を取り出しカップに注ぎ、食パンを用意する。フライパンに油をひいて熱し、息子が一枚ずつ入れた食パンをボールの中で黄身に漬し手早くフライパンの上で焼く。
すっかり手馴れた様子だが、突然妻が出ていった18ヶ月前はてんやわんやだった。
それからというもの、順調に出世街道を歩んできたテッド・クレイマー(ダスティン・ホフマン)は、7歳のビリーの面倒を見ながら仕事をするので失敗続きだ。
ちょっと目を離した隙に息子が10針を縫う怪我をし、挙句に会社をクビになる。慌てて格下の会社に強引に就職を決めるが、妻のジョアンナ(メリル・ストリープ)が起こした親権裁判に負ける。
息子を引き渡す日の朝、彼女は涙ながらに言う――「あの子の家はここよ」
  (注釈1)

最愛の妻マギーに先立たれたサム(トム・ハンクス)は、眠れない夜を過ごしている。そんな父親を見るに見かねた8歳になる息子のジョナは、ラジオ番組「心のクリニック」にシアトルから電話をかける。
「パパに新しい奥さんを見つけたい」
息子さんのクリスマスの願い事だからと言って、パーソナリティのドクターは躊躇するサムに向かって別の人を愛せない妻の魅力を尋ねる。
サムは一言一言かみ締めながら誠実に答える――「初めて彼女と触れ合った瞬間、運命のマジックを感じた」
番組の反響は凄く、全米の女性から何百通もの手紙が送られて来る。その中でボルチモアから来たアニー(メグ・ライアン)の手紙はくしゃくしゃである。彼女が書き捨てたやつを黙って友人が送ったからだ。
だがその手紙を読んで運命を感じたジョナは、ハイエナのような笑い方をする父親のデート相手が気に入らない。バレンタイン・デーにエンパイア・ステート・ビルまで彼女に会いに行くよう進言するが、相手にされない。
ジョナは仕方なく一人で飛行機に乗り、ビルの展望台まで行く。慌てて追いかけてきたサムは、狂ったように息子を呼び抱きしめる。そしてアニーと運命的な再会をする。
わざわざシアトルまでサムに会いに行ったのに、ハローとしか言えなかった彼女だった。
  (注釈2)

「シンデレラ・リバティー」と言うと、ちょっとロマンチックに聞こえるが、米海軍の水兵間で使われるスラングで、深夜12時までの外出許可のことを意味する。
痔に似た奇病の治療のため、寄港したノーフォークの海軍宿舎に寝泊りするジョン・バッグス二等兵(ジェームス・カーン)は、安酒場でマギー(マーシャ・メイスン)と知り合う。玉突きをする彼女のヒップの形が抜群で、思わず勝負に挑戦して勝ち、賭け金の不足分の代わりにまんまと彼女をものしたからだ。
マギーのアパートへ行くと、黒人の息子ダグが寝ている。気になって早々と事を済ませたジョンは、遊園地の観覧車で再びダグと出会う。11歳なのにビールは飲んでいるしタバコも吸っている。母親がほったらかしなので、映画に誘ったり、ケーキを持ってきたりする。おまけに、虫歯だらけで笑えないので治療してやると約束をする。
息子の面倒を見てくれるジョンに対し、信心深い父親の影響だと感じたマギーは、幾つか規則でもあるの?と彼に尋ねる。
「汚い言葉は使わない。嘘は嫌いだ。決して君に暴力をふるわない」
妊娠した上、生活保護まで打ち切られるマギー。兵員記録を紛失され給料がもらえないにもかかわらず、ジョンはあらゆる手段を使って献身的に二人を助ける。そしてダグにバスケやボクシングを教えるうちに、結婚を決意する。
だが海軍は記録のないジョンの結婚を認めない。出産に立会ったジョンは父親の気分を味わったものの、未熟児が死に絶望したマギーは安酒場に舞い戻る。
記録が見つかる。喜び彼女のもとへ駆けつけるが、幸せだったニューオリンズへ去ったあとだ。
残されたジョンは、ダグに翌朝5番埠頭に来いと言う。ダグが埠頭へ行くと、別人のジョンが乗船している。
セーラー服を脱いだジョンが現れ、息子の肩を抱いて言う――「ニューオリンズのエビはうまいぞ」
トゥーツ・シールマンズの哀愁を帯びたハーモニカが心に残った。
  (注釈3)

1977年に初めて「シンデレラ・リバティー」の原作小説を読んだとき、僕は映画界に身を投じようとした。だが親に反対され実家に帰った。宙ぶらりんの状態で大学に籍を置き、1979年にレコード業界に入り、翌年退学届を出した。
「シンデレラ・リバティー」のジョン・バッグス(ジェームス・カーン)も、「この日をつかめ」のトミー・ウィリヘルム(ロビン・ウィリアムズ)も、「アニー・ホール」のアルビー・シンガー(ウディ・アレン)もみんな大学中退である。しかも一人残らず奥さんに逃げられている。
中退の理由はそれぞれ違うが、今でも大好きなキャラクターだ。
繰り返すけれど、ジョン・バッグス二等兵の魅力は、信心深い父親の影響と思われるこの台詞に凝縮されている。
 
「汚い言葉は使わない。嘘は嫌いだ。決して君に暴力をふるわない」
大学を中退し、彼女にも逃げられたせいか、今でも宙ぶらりんのような気がする。
57歳ともなれば、やはり息子がいたらと思う。でっち上げでも構わない。
若い連中と酒を飲むのが楽しいのは、そのせいかもしれない。
注釈1、「クレイマー、クレイマー」(監督:ロバート・ベントン)
     アメリカ映画 1979年製作 原題:Kramer vs. Kramer
     米アカデミー賞作品賞、監督賞、主演男優賞(ダスティン・ホフマン)
     助演女優賞(メリル・ストリープ)、脚色賞受賞
     ゴールデングローブ賞ドラマ部門作品賞、主演男優賞、助演女優賞、脚本賞受賞

     メーカー:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント
     メディア:DVD
注釈2、「めぐり逢えたら」(監督:ノーラ・エフロン)
      アメリカ映画 1993年製作 原題:Sleepless in Seattle

      メーカー:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント
      メディア:DVD
注釈3、「シンデレラ・リバティー かぎりなき愛」(監督:マーク・ライデル)
      アメリカ映画 1973年製作 原題:Cinderella Liberty
      原作:ダリル・ポニクサン(デビュー作「さらば冬のかもめ」)
      ゴールデングローブ賞(ドラマ部門)主演女優賞(マーシャ・メイスン)受賞

      メーカー:20世紀フォックス・ホーム・エンターテインメント
      メディア:DVD

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