運を味方に生き残れ。
ショパンのバラード第1番
運を味方に生き残れ。
introducing 「戦場のピアニスト」「キリング・フィールド」「大いなる幻影」
例えば、戦時中の捕虜収容所から脱走を試みたとする。
アクション映画の好きな人なら、「大脱走」を思い浮かべるだろう。
腕っ節の強いスティーブ・マックイーンが次々と立ちはだかる敵を倒していく。敵地からひたすら逃げ出すだけなのに、見ていてスカッとする。
史実に基づいて製作されたとは言え、随所に映画的な嘘や演出があるからだ。
(注釈1)
ところが敵軍やクーデター政権に支配された祖国で、軍人ではない丸腰の民間人が生き残ることは至難の業である。
幸運が味方しなければ、不可能だと言っていい。
ハイホー、マンハッタン坂本です。
第二次世界大戦、ドイツ軍に占領されたポーランド。
ウワディスワフ・シュピルマン(エイドリアン・ブロディ)は、ワルシャワのラジオ局で生演奏をする才能あるピアニストだった。
だが住み慣れた家を捨て家族5人と共にユダヤ人ゲットーに住まわせられる。
過酷な生活のあと、収容所行きの列車に乗せられそうになるが、寸でのところで彼ひとり逃がされる。彼のファンであるポーランド人歌手夫婦のお陰だ。
ゲットーを脱出して隠れ家を提供され、彼の親友の妹の手引きで敵の本拠地を目前にした一室に隠れる。
ユダヤ人レジスタンスの抵抗、ポーランド人による蜂起のあと、廃墟と化した家の中で、ついにドイツ人将校に見つかる。シュピルマンはピアニストであることを証明するため、必死でショパンのバラード第1番を演奏する。
その演奏に深く感動した将校は、見逃してくれたばかりか食料まで調達してくれる。
やがてソ連軍によりワルシャワが解放される。
生き残ったシュピルマンは、晴れて大衆の前で演奏会を開く。
(注釈2)
ベトナム戦争末期、内戦中のカンボジア。
ディス・プラン(ハイン・S・ニョール)は、ニューヨーク・タイムズの記者シドニー(サム・ウォーターストン)を情報収集や通訳でサポートしていた。
やがて反政府の赤いクメールが祖国を支配し、プノンペンのフランス大使館へ逃げ込む。
外国人国外退去命令が出され、シドニーたちは偽のパスポートをつくる。赤いクメール軍に捕まったときに必死で助命してくれたプランを助けるためだ。だが古い印画紙のため写真が消えてしまう。
赤いクメールの集団農場から脱出し損なったプランは、あるとき思いがけなく、かつてベンツ車のエンブレムをプレゼントした少年から開放される。
ひたすら逃走するさ中、一面人骨だらけとなった大量殺戮の刑場を目の当たりにする。
別の集団農場に潜り込んだ彼は、現体制に批判的な幹部から地図を渡され、幼い息子を託される。数人の仲間と共に脱出するが、途中地雷で子供を失い、ひとりタイの難民キャンプへたどり着く。
プランにいち早く会いに来たのは、ピューリッツァー賞を受賞したシドニーだった。
カーラジオからは、ジョン・レノンの「イマジン」が流れていた。
(注釈3)
IMAGINE by JHON LENNON
第一次世界大戦下、ドイツ軍の捕虜となったフランスのマレシャル中尉(ジャン・ギャバン)は、貴族出身のボワルデュ大尉(ピエール・フレネー)と共に何度も脱獄に失敗し、将校収容所を転々としていた。
ついに貴族出身で傷だらけの所長ラウフェンシュタイン(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)のもと、高さ36メートルの城壁がある収容所に入れられる。
所長とはお互いに敬意を表していたボワルデュ大尉は、マレシャル中尉とユダヤ人のローゼンタールを逃がすため、ある計画を立てる。捕虜たちが笛などを鳴らして騒ぎを起こし全員が集められ点呼される隙に、大尉が笛を吹きながら逃亡するふりをするのだ。
所長はやむを得ず大尉に向って発砲する。だが運悪く致命傷となる。
「人は戦争で死ぬことを嫌うが、私たち職業軍人にとっては、最高の死に方だ」
「私は死にそこなった」
まんまと脱走に成功した二人は、言い争いをしながらも助け合い、ある百姓家に逃げ込む。そこには夫や兄弟を戦争で失い幼い娘と二人だけで暮らすドイツ人のエルザがいた。
彼女にかくまわれた二人は、娘のロッテのためにクリスマスのプレゼントをする。ジャガイモでつくったキリスト一家だ。
マレシャル中尉は、いつの間にかエルザを愛していた。
彼女との再会を誓いつつ、雪山の国境へ向う。戦争が終るなんて幻影だよ、と言うローゼンタールと共にスイスへと逃げ延びる。
(注釈4)
敵を誰一人として倒さず、むしろ敵側の人間から助けられて生き延びた者たちは、彼らの善意をどう受け止めたのだろうか。
いや、善意ではないかもしれない。偶然の気まぐれかもしれない。
だがその行為は、戦時中であっても、敵味方の区別をしない、人間としての尊厳を失っていない証拠かもしれない。
ユダヤ人の心理学者ヴィクトル・フランクルは、ナチスの強制収容所を転々とさせられつつ生き残り、世界的な名著と言われる「夜と霧」を書き上げた。
(注釈5)
囚人仲間が毎日のように死んだりガス室送りになる過酷な状況の中で、彼は生き延びることだけに必死だったわけではない。むしろ自分たちの有様を冷静にユーモアの心を忘れずに見つめていた。
ときに彼は、安否の知れない妻の面影を思い浮かべ、いっときの幸せをかみしめる。
ときに彼は、様々な色彩を放つ夕焼け雲を仲間と共に眺め、自然の美しさに感動する。
そして生き延びた。
死を恐れるのではなく、日々懸命に生き抜くことによって、生き残ったのだ。
幸運も味方したに違いない。
注釈1、「大脱走」(監督:ジョン・スタージェス)
アメリカ映画 1963年製作 原題:The Great Escape

メーカー:20世紀フォックス・ホーム・エンターテインメント
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注釈2、「戦場のピアニスト」(監督、脚本:ロマン・ポランスキー)
ポーランド・イギリス・フランス・ドイツ映画 2002年製作 原題:The Pianist
米アカデミー賞監督賞、脚本賞、主演男優賞(エイドリアン・ブロディ)受賞
カンヌ国際映画祭パルムドール受賞
英アカデミー賞作品賞受賞
キネマ旬報ベストテン第一位

メーカー:アミューズソフトエンタテインメント
メディア:Blu-ray
注釈3、「キリング・フィールド」(監督:ローランド・ジョフェ)
イギリス映画 1984年製作 原題:The Killing Fields
米アカデミー賞編集賞、撮影賞、助演男優賞(ハイン・S・ニョール)受賞
英アカデミー賞作品賞、主演男優賞、脚色賞、編集賞、撮影賞、衣装デザイン賞、音響賞受賞

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注釈4、「大いなる幻影」(監督、脚本:ジャン・ルノワール)
フランス映画 1937年製作 原題:La Grande Illusion
ヴェネツィア国際映画祭芸術映画賞受賞

メーカー:ファーストトレーディング
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注釈5、「夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録」(著者:ヴィクトル・E・フランクル)
初版:1947年

出版社:みすず書房
メディア:単行本
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