金で買える絆なんてない。

IMG_1428 / gtknj 熊本城桜
金で買える絆なんてない。
introducing 「しとやかな獣」「木村家の人びと」「大誘拐」
3月の暖かい日、僕らは散歩に出た。
僕と君と、僕の親父と、バツイチな君の娘も一緒だ。
桜の満開の下、腰を下ろし、缶ハイボールを飲みながら、とりとめないお喋りをする。時折、舞い散る花びらを目で追う。まるでゴンチチがギターで伴奏しているようだ。
そんなとき、親父が気持のいいお喋りを突然やめて、僕に向かってこうたずねた。
「これが幸せでないなら、いったい何が幸せだと言うんだ?」
僕はハッと目を覚ます。さっきまで話していたのは、88歳になる親父なのか、カート・ヴォネガットなのか分からなくなる。
まあいい。僕のアメリカの親父は、声高にこう言っている――「幸せなときには、幸せなんだと気づいてほしい」
金で幸せは買えない。金で人と人との結びつきは買えない。
そうあって欲しいと思う。
ハイホー、マンハッタン坂本です。
団地の一室に住む前田家では、時造(伊藤雄之助)とよしの(山岡久乃)が模様替えをしている。テレビやルノアールの絵をかたづけ、テーブルクロスを安物に替える。自身もみすぼらしい浴衣に着替え、貧乏臭ささを演出する。
そこへ芸能プロの香取社長(高松英郎)が怒鳴り込んでくる。タレントのギャラを集金するお宅の息子が百万円使い込んだ、と。息子に限ってそんなことするわけがない、と二人は涼しい顔でやり過ごし、追い返す。
その直後、息子の実が帰って来る。大衆小説家の二号をやっている娘の友子も戻って来る。
「あの頃に戻りたいのか? 雨漏りのするバラックで雑炊ばかり食ってた生活に」
会社の金を着服したり、先生に借金を頼んだり、誰のお陰でこんな良い生活ができるんだ!と文句たらたらの子供たちに向って、時造は一喝する。
人の出入りが激しくなる。原稿料を横取りされたと小説家が文句をつけに来る。会社の経理担当の三谷幸枝(若尾文子)が実と別れ話に来る。旅館開店のメドがついたからだ。2人の共謀を知った香取が怒りと嫉妬で恐喝に来る。
数日後、旅館の女将となった三谷が小言を言いに来る。実が店で騒ぎを起こしたからだ。
そこへ香取が飛び込んで来る。彼女と関係のあった税務署の徴収係(小林桂樹)がクビになったからだ。三谷を責めるが、もう関係ないと無視される。難を逃れるため、実と取引せざるを得なくなる。
どんな困った状況でも慇懃無礼にやり過ごす両親のもと、娘が小説家に追い出されて帰って来る。
一家団欒で久々に飯が食える、と時造は安堵する。
(注釈1)

「木村家の人びと」の朝は早く忙しい。
典子(桃井かおり)はセクシー・モーニング・コールをやりながら弁当の準備をする。自転車で朝刊の束を取に行った肇(鹿賀丈史)は、配達を待つ老人会の面々に一人一人駄賃を払って新聞を渡す。
小学生の娘の照美と息子の太郎が加わり弁当をつくる。戻って来た老人たちが無料パスを利用して弁当の格安宅配をする。
さらに肇は車の便乗代を取って会社に出勤する。残った弁当を昼食用に売りさばく。暇な窓際仕事なので、同僚たちを巻き込み社内の醜聞をネタに口止め料を稼ぐ。
やり手の娘は子供会のちり紙交換で稼いでいる。
木村家に異変が起こる。兄夫婦から預かっていた典子の母親が老人会との交流で認知症が治る。
太郎を養子に欲しいと兄夫婦が言ってくる。罪悪感にさいなまれる様を見て密かに太郎に聖書を贈り、文通するうちにその気になったのだ。
太郎の本音を知った二人は、ベルマーク集めに鞍替えする。だが長続きしない。何よりも小銭集めが好きだからだ。そんな自分も夫も好きだからだ。
太郎が泣く泣く養子になる決心をする。
だが兄夫婦の家を目前にして車に戻る。父親に向かって、守銭奴!小銭肇!とののしりながら。
(注釈2)

広大な山林を持つ大地主・柳川家の当主である82歳のとし子(北林谷栄)は、ハイキングの途中で健次(風間トオル)らチンピラ3人組の待ち伏せに遭う。自分の誘拐が目的だと知り、連れの少女を解放する条件で三本締めをする。
不案内な土地での不用意な計画を即座に見透かしたとし子は、人質にもかかわらず、チンピラたちを手下のように使う。お互いを雨、風、雷と呼び合っているので、虹の童子と名付ける。
竜神村に住む元女中頭(樹木希林)の家にアジトを構え、百億円という莫大な身代金を要求する。
やり手の県警本部長の井狩(緒形拳)の裏をかいて、とし子はTV中継で生きている姿を見せる。
快適に過ごしていることをアピールしたあと、身を案ずる子供たちに向かって遺産譲与で百億円を捻出するよう指示する。
スリの前科があるリーダーの健次がついに素性を明かす。おばあちゃんの天晴れさに平伏したのだ。
山があるから登った、私がいるから誘拐した、ととし子も納得する。
警察を混乱に陥れ、子供たちからまんまと百億円を巻き上げたとし子が生還する。
「獅子の風格と、狐の抜け目なさと、パンダの親しさを兼ね備えている」
彼女の手口に対し、そう言って井狩は脱帽する。
改心した3人組のうち、一人残った健次が身の回りの世話をしている。
井狩の前で白を切り通したとし子が一瞬だけ顔を曇らせる。遺産相続で山林を国に取られたくないという想いがあったからだ。
(注釈3)
僕らの少年時代は、高度経済成長期だった。
ピーター・ドラッカーが言うように、1965年から73年のどこかで、世界は新しい世紀に入ったにちがいない。
それはとりもなおさず世界規模で広がる浪費社会の幕開けではなかったか。
2011年に起こった東日本大震災やタイの大洪水のお陰で、グローバル化した浪費社会が改めて思い知らされた。
悲しいことに、浪費しないと経済が活性化しないらしい。
戦時中、ぜいたくは敵だ!と言われた。今となっては信じられない言葉だ。
東日本大震災後、人と人との結びつき――「絆」を大切にするようになった。悪くない。
ただ、忘れないで欲しい。
ぜいたくは、必ずしも味方とは限らない。
金のかかる「絆」なんて「絆」ではない。
ささやかな幸せなら、何処にでもどんなときでも見つかるはずだ。
ところで、2006年2月1日に「桜の花びらたち」でシングル・デビューしたのは、AKB48である。あしからず。
注釈1、「しとやかな獣」(監督:川島雄三)
日本映画 1963年製作
原作、脚本、新藤兼人
メーカー:角川映画
メディア:DVD
http://youtu.be/0cy-_ClEsLQ
注釈2、「木村家の人びと」(監督:滝田洋二郎)
日本映画 1988年製作

メーカー:ポニーキャニオン
メディア:VHS
注釈3、「大誘拐~Rainbow Kids~」(監督:岡本喜八)
日本映画 1991年製作
日本アカデミー賞最優秀主演女優賞(北林谷栄)受賞

メーカー:東宝
メディア:DVD
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