人間って電送できるの?

Steve Jobs and Bill Gates
Steve Jobs and Bill Gates / Joi

人間って電送できるの?
introducing 「傷だらけの山河」「陽はまた昇る」
18歳で入社し61歳で退職するまで、僕の父親はそのほとんどを電話回線を伸ばすことに邁進してきた。もちろん台風などの災害で回線が切れた際、復旧作業も行っている。伊勢湾台風のときは、50人ばかりの部下を引き連れ九州から応援に行ったという。
お陰で、来年88歳の誕生日を迎えれば、勲章がもらえるらしい。
24歳で業界に入り54歳で引退するまで、僕はひたすらレコード盤を売り続けた。録音録画テープも売った。だがEP・LPレコードからCD、レーザーディスクからDVDと形態は変化すれど、一貫してレコード盤を販売してきたと自負している。
もちろん勲章はもらえない。いつまで経ってもキネマ旬報・映画検定の1級に合格しないだけだ。
21世紀に入るや、飛躍的に通信技術が進歩した。音楽や動画はもちろん、あらゆる情報が無線で多機能携帯端末(スマートフォン)に飛び込んでくる。
送信フォンから飛び込んで、受信フォンから人間が飛び出してくるなんて時代が来るのではないか、とSFチックな錯覚に陥りそうだ。
ハイホー、マンハッタン坂本です。


「本当に良い世の中というものは、金がなくとも、ある人と同じように豊かな生活ができなくちゃならない」
西北電鉄の有馬会長(山村聡)は、社会民衆のために7人前の事業をやっている。いい女も見逃さない。自分の会社で薄給の事務員をする福村光子(若尾文子)を見初め、そう言って口説き落とす。内縁の夫で売れない画家との貧乏生活に彼女が疲れ果てていることを知っているからだ。
有馬勝平には、義父の出資を当てにして結婚した本妻の他に妾が3人もいる。本妻の長男は彼の片腕として立派に働いているが、次男の秋彦(高橋幸治)は精神が不安定で、父親の事業に反感を抱いている。腹違いの大学生2人も実父に対する憎しみを隠さない。
新路線のため密かに用地買収を始めた有馬は、敵対する関東開発のちょっかいにも動ぜず、運輸省から認可を受ける。路線変更に反対する住民運動も地元出身の国会議員を使い押さえ込む。念願だった理系の大学、西北学院の建設にも着手する。
ゴルフの手ほどきをしたのが切っ掛けで、秋彦は光子と親密になる。妾の子が認知請求訴訟を起こす。
求婚するつもりで押しかけた光子のマンションで、秋彦は父親と鉢合わせする。そのショックで精神病院に入る。光子は有馬に黙ってマンションを引き払う。
紺綬褒章受勲記念パーティの最中、建設中の校舎が放火される。精神病院から抜け出した秋彦の仕業だ。
未開発の地域にひたすら線路が延びて延びていき、滝山線が開通する。華やかに見えても、傷だらけのスタートだった。
   (注釈1)

日本ビクター横浜工場ビデオ事業部は、窓際族の溜まり場である。故障で返品された業務用VTRの修理に追われている。
数年後に定年を迎える開発技師の加賀谷静男(西田敏行)は、そこへ事業部長として赴任する。
本社から20%人員削減を厳命されたにもかかわらず、従業員241名の職場を守る決意をする。管理者になっても技術屋の端くれだからだ。
加賀谷は次長の大久保(渡辺謙)に、ビデオ事業部が抱える無形財産の資料を要求する。従業員が持っている技術や販売網、彼が協力会社と呼ばせている下請けのリストである。
それをもとに、ビデオ開発課とシステム開発課に分け、密かに家庭用VTRの開発に着手する。営業を担当するシステム課は単に売上を伸ばすだけでなく、消費者のニーズをキャッチする役目も担っている。
ソニーが1時間録画の可能なベータ・マックスを発表する。
だが2時間録画が絶対条件だと確信した加賀谷は、VHS(ビデオ・ホーム・システム)と名づけ、全力でM型ローリング方式のビデオ・デッキの開発を押し進める。10ヶ月で完成させる約束で、本社の専務も協力する。
ついに試作機が完成する。規格の採用をしてもらうために関係各社に公開し、高い評価を得る。
「あきらめるなら、やり直せばいいじゃないか」
通産省からベータ方式を採用するよう圧力をかけられ落ち込んだ加賀谷に向って、大久保が事業部長の口癖を引用してそう言う。松下幸之助(仲代達矢)に直談判させるためだ。
二人は車で大阪にある松下電器産業の工場に試作機を持ち込む。
1976年、10月31日、最初のVHS製品HR-3300が秋葉原の店頭に並ぶ。
全国に強力な販売網を持つ松下電器がビクター方式を採用するという新聞記事が載る。
加賀谷部長以下ビデオ事業部全員の努力の賜物であった。
一方海の向こうでは、サンフランシスコ生まれの21歳の青年スティーブ・ジョブズがスティーブ・ウォズニアックと組んで、世界初のパーソナル・コンピュータ「アップル・ワン」を666.66ドルで販売していた。
   (注釈2)
10月5日、アップルのスティーブ・ジョブズ会長が56歳で亡くなった。
彼は僕と同じ1955年生まれである。彼は2月生まれで、僕は3月生まれだ。
彼は僕と同じ大学中退である。1976年当時、彼はコンピュータに、僕は映画に夢中だった。
ちなみに、当時僕が通っていた電気通信大学の同級生は、ミニ・コンと称して現在のパソコンに通じるコンピュータを開発していた。完全にジョブズ氏に遅れをとったことになる。
ありし日のジョブズ氏の姿を見ていると、僕と酷似していてビックリする。
頭の禿げ方が同じである。顔の痩せ方が同じである。いつも丸眼鏡をしている。体型も同じである。
公式の場で、彼はいつも黒シャツにジーンズを着ている。タータン・チェックのシャツかツイードのジャケットを着ているとき以外、僕もたいてい黒シャツか黒ジャケットにジーンズである。
熊本か福岡で、スティーブ・ジョブズ氏に似た風貌の日本人を見かけたら、マンハッタン坂本だと思って間違いない。
ただ、「傷だらけの山河」の有馬会長がジョブズ氏だとすれば、僕は若尾文子が扮した福村光子に見捨てられた売れない画家である。
おまけに、画家を演じた川崎敬三が若いときの僕に似ている。見捨てられたとは言え、若尾文子さんの内縁の夫という役柄は悪くない。
ルーカス・フィルムのコンピュータ・アニメーション部門を買い取り、ピクサーという名の独立会社を設立したのは、スティーブ・ジョブズ氏である。映画製作に注力するジョージ・ルーカスが不採算な部門を手放したからだ。
フルCGアニメの画期的な第一作「トイ・ストーリー」に投資したのも同氏である。その後のピクサー・アニメの飛躍的な成長は改めて語るまでもない。
ご冥福をお祈りします。

注釈1、「傷だらけの山河」(監督:山本薩夫)

      日本映画 1964年製作
      原作:石川達三 脚本:新藤兼人
      メーカー:角川エンタテインメント
      メディア:DVD
注釈2、「陽はまた昇る」(監督:佐々部清)
      日本映画 2002年製作
      原作:佐藤正明「映像メディアの世紀」 

      メーカー:JVCエンタテインメント
      メディア:DVD

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