ささやかだけれど、塀の中でできること。

Oslo County Jail
Oslo County Jail / stigeredoo

                                                          オスロ刑務所
ささやかだけれど、塀の中でできること。
introducing 「刑務所の中」「接吻」
ジョークには二種類ある。言っていいジョークと言っちゃいけないジョークだ。
だが人を笑わせるのは楽しい。だから手っ取り早い話、失敗ネタを使う。
図らずも大ウケした失敗がある。
僕が住んでいる熊本市の繁華街で、下通りというのがあって、そこに産地直送の八百屋さんがある。早朝から営業しているのでよく利用する。
キャベツを買ってきてくれと頼まれ、僕は店の前に来て、ケータイで確認した――「早(はや)生まれしかないけど」
お分かりの通り、早生(わせ)のことである。
アメリカ映画の好きなところは、ヒーローが窮地に陥ったとき、必ずジョークを言う。そうすると、見ている側は何とか乗り切れると確信する。
もし僕がにっちもさっちもいかない状況に陥ったとき、そんな風にジョークが言えたらと思う。
だが世の中には、ジョークにできない出来事、あるいはジョークにしちゃいけない出来事が沢山ある。
その出来事が悲惨であればあるほど、ジョークは第三者には許されない。
許されるのは、死を免れた被害者か被害者の身内だけだ。
銃砲不法所持までは許せるが、それを使って人の命を奪ったり傷つけたりした連中を、「塀の中の素敵な面々」みたいな感じで描くことに対し、僕は非常に抵抗感がある。
ジョークと同様、彼らを寛大に許す権利があるのは、死を免れた被害者か被害者の身内だけだ。
ハイホー、マンハッタン坂本です。


ガン・マニアのハナワ(山崎努)は、銃砲刀剣等不法所持、火薬類取締法違反で懲役3年となり、規則正しい刑務所ライフを送っている。同居人は303室の4匹。おぼっちゃまの伊笠(香川照之)、「仁議」という変な刺青をした小屋(松重豊)、SM趣味の田辺(田口トモロヲ)、シャブ中毒の竹伏(村松利史)である。
起床してまず、僅かなほこりも見逃さず掃除をする。素早く座布団の上で正座し点呼を受ける。無駄のない動きで朝食の配膳をする。決められた歩数で廊下に整列する。掛け声を上げて行軍し、工場に入る。
願いますと言って看守から許可がないと、便所に行けない。落とした消しゴムすら拾えない。他の受刑者のクロスワード・パズルをするとしょっぴかれる。
何がありがたいかと言って、悪事を働いたのに毎朝7時に、きちんと忘れられず朝食にありつけることだ。
米七麦三のごはん、タマネギと切ふの味噌汁、まぐろフレークと金時豆の佃煮。
夕食の春雨スープに入った牛肉が多いと嬉しい。
毎月6回のパン食も待ち遠しい。ギトギト光るマーガリン。賽の目に切ったリンゴが入ったフルーツ、甘い甘い小倉あずき。
「嵐も発生し、津波の可能性もある。速やかに3階へ避難せよ」
地震を想定した訓練で、戦時中を思わせる防空頭巾をかぶった受刑者たちに向かって看守がそう言う。そして、わ~っしょい、と号令をかける。
懲罰房での独りライフも悪くない。誰とも会わないでいいし、頭を使わず薬袋貼りに集中できる。今日中に300枚つくるぞ、と目標ができる。
同じ嗜好の受刑者の隣りに座り、ハナワは嬉しそうに言う――「めしに醤油かけて食うと、うまいよな」
   (注釈1)

例えば、田舎の民宿にいきなり泊めてくれと若い女が来る。何だか自殺しそうで断られる。本人はいたって衝動的な行動なのに、運が悪いというか陰気に見られる。
物静かな28歳の遠藤京子(小池栄子)は、そんなタイプのOLである。
大田区の一軒家に住む三人家族がカナヅチで殴り殺される事件が起こる。
犯人の坂口秋夫(豊川悦司)は、盗んだカードを使ってATMで現金を引き出したとき、顔を監視カメラの方に向け警察に通報する。TV局4社に取材を要求し、多摩川河川敷で警察に逮捕される一部始終を撮影させる。
その映像を見た京子は、彼に異常な親近感を持つ。坂口がずっとニヤニヤ笑っていたからだ。
犯人は殺人を認めたものの、その後黙秘を続けているという。
京子は、事件の新聞記事の切り抜きをノートに丁寧に貼り、坂口の年譜を手書きする。
初公判を傍聴する。国選弁護人である長谷川(仲村トオル)を待ち伏せし、差し入れをしたいと申し出る。他人事とは思えないので、何かしたいからだ。彼は見ず知らずの人から受け取らないと長谷川が言うので、私のことを伝えてほしいと頼む。
「あなたのお陰で、私の人生が価値あるものになるだろうと確信しています。あなたの声が聞きたいのです」
京子は、差し入れと一緒に手紙を出す。何故書いたか分からない、と返事がくる。
長谷川に尋ねられ、思った通りの人だった、と幸せそうに言う。
もっと早く出会いたかった、と手紙に書く。もし私を受け入れてくれるのなら、声を聞かせてほしい、と懇願する。
最後に何か言いたいことは、と裁判長から問われ、「ありません」と坂口が声を出す。
京子の顔に満面の笑みが浮かぶ。
結婚して欲しい、と京子は手紙に書く。判決が下り控訴しなければ、会えなくなるからだ。
死刑判決のあと、初めて面会する。婚姻届を持参し、坂口の承諾を受ける。
長谷川の必死の説得に応じず、獄中結婚する。マスコミに知られ、つきまとわれ、非難される。京子は益々坂口との一体感を得、自分たちを無視続けた世間に対し共に戦う幸せをかみしめる。
だが長谷川の説得で、坂口が控訴を承諾する。
拘置所所長の許可が下り、仕切りのない部屋で面会する。京子はケーキを持参し、ロウソクに火をつけ、ハッピーバースデイ・トゥ・ユー、と歌う。目をつぶって聞いていた坂口に近づき、隠し持ったナイフをそっと見せる。強く抱きしめ、胸を刺す。
振り返り様に長谷川にナイフを向けるが、振り払われる。強引に「接吻」して舌を噛み切ろうとするが、取り押さえられる。
僕が弁護すると言う長谷川に向かって、京子は叫ぶ――「放っといて!」
   (注釈2)

2011年2月5日、連合赤軍のリーダーだった永田洋子(ひろこ)死刑囚が東京拘置所で、ひっそりと病死した。
彼女は、12人の同志を殺害した「山岳ベース事件」に関与している。
日本のTV放映史上、初めてと言われる定点生中継が行われた「あさま山荘事件」には関与していない。そのせいか、大きく報道されなかった。
「あさま山荘事件」は、永田と事実婚の関係にあった坂口弘死刑囚が首謀者である。すでに連合赤軍のナンバー1,2である永田と森恒夫が逮捕されていたからだ。
事件の真相を正しく理解されていないという理由で、永田は死刑判決を受け入れなかったという。
事件の真相って何なんだ? 
当事者である彼女以外に、誰が知りえるというのだろうか?
僕らが知っている事実は、彼女が「総括」とか「処刑」と称してリンチをし、十三人の命を奪ったことだけだ。動機はどうあれ、その事実を素直に受け入れるべきだ。
判決によって刑期の長さは違う。犯した罪の大小が刑期の長さに比例するとは限らない。刑期を終えたから、あるいは死刑になったからと言って、犯した罪が消えてなくなるわけではない。
ささやかだけれど、塀の中でできること。それは犯した罪を少しでも償うことだ。
殺された人は生き返らない。
繰り返すけれど、加害者を寛大に許す権利があるのは、死を免れた被害者か被害者の身内だけだ。
そして彼らも加害者を許すことによって、残りの人生を前向きに生きていけるのではないかと思う。
自分の残りの人生を仇討ちだけに捧げるなんて、僕にはできない。

注釈1、「刑務所の中」(監督:崔洋一)

      日本映画 2002年製作 英題:Doing Time
      原作漫画:花輪和一
      キネマ旬報ベストテン助演男優賞(香川照之)受賞
      ブルーリボン賞監督賞受賞

      メーカー:ジェネオン・エンタテインメント
      メディア:DVD
注釈2、「接吻」(監督:万田邦敏)
     日本映画 2006年製作 英題:Seppun
     毎日映画コンクール主演女優賞受賞

     メーカー:ジェネオン・エンタテインメント
     メディア:DVD

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