ハッピーエンドより、先に食べたい。

Sardines in Olive OIl
Sardines in Olive OIl / Accidental Hedonist

ハッピーエンドより、先に食べたい。
introducing 「居酒屋ゆうれい」「異人たちとの夏」
僕の知り合いの女子は、いつもの映画館で映画を観終わったあと、近くの店でパスタを食べる。
その店には50種類以上のパスタがあり、その時観た映画の印象でオーダーを決めるのだと言う。
彼女のライフ・スタイルは、映画とパスタがセットなのだ。
友人の薦めで、オイル・サーディンの入ったパスタを食べたことがある。なんだか違った食感で美味しかった。
オイル・サーディンは昔、進駐軍イワシと言われた。
「大停電の夜に」の中で、ジャズ喫茶のマスター・豊川悦司がつくっている。
缶詰ごと火であぶって醤油をかけ、単品で出されることが多い。洋の東西にかかわらず、酒の肴として最適である。
  (注釈1)
こんばんは、マンハッタン坂本です。


かづさ屋は、常連の魚屋が持ってくる中とろ煮込みが人気の居酒屋である。
嘘だったら出てくるよ、と死際に女房のしず子(室井滋)から言われた主人の壮太郎(萩原健一)は、のちぞいをもらわないと約束する。だがバツイチとはいえ若くて元気で美人の里子(山口智子)に見染められ、新しい女将として迎える。
彼女のお陰で店は客が座りきれないくらい繁盛する。
ご機嫌で三遊亭圓楽の落語をTVで見ているところに里子が抱きついてくる。その途端にTVの画面が砂嵐となり、つむじ風が吹く。そしてぬーっとしず子が現れる。
それからというもの、毎晩のように出てきて二人をおどかすので、店に「オバケ有ります」の張り紙を出す。
オバケとは、おばいけとも言い、クジラの尾ひれを酢漬けにしてさらしたもので、酢みそをつけて食べる。そしてたちまち売り切れる。
「あんた、何かい、あのオバケってのはあたしへの当てつけ? 幽霊コケにするとたたるよ」
初めのうち怖がっていた里子は、寂しくて成仏できないしず子の姿を見て、一緒に酒を酌み交わし仲良くなる。お互い壮太郎が好きでたまらないからだ。
だが壮太郎は、幽霊の掛け軸に入れて供養すれば出てこなくなると寺の和尚から言われ、画策する。だがうまくいかない。
それでもしず子は、里子に乗り移り壮太郎の肩を揉んだりエッチをしたりする。出所した里子の元夫(豊川悦司)を亡きものにする。揚句にこの世に戻れなくなる覚悟で、土下座して頼む壮太郎の常連を助けるため野球賭博に手を貸す。
里子に乗り移ったまま壮太郎と抱き合い、この世を去る瞬間にしず子に戻って壮太郎を見つめる笑顔が、たまらなく切なかった。
本妻と二号との三角関係の落語「悋気(りんき)の火の玉」やフランキー堺の映画「幽霊繁盛記」など、随所に幽霊ネタがあり、人情噺もあって落語のように楽しい。
  (注釈2)

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TVドラマの脚本家である原田(風間杜夫)は40歳。子供の頃暮らした浅草を久々に訪れ、ふらりと演芸場に入り落語を見る。すると前の席に父親そっくりの男がおり、程なくして原田に気づくと男が出ようと声をかけてくる。
原田は、そのまま男のアパートに連れて行かれ、12歳のときに交通事故で亡くなった寿司職人の父親(片岡鶴太郎)と母親(秋吉久美子)がその当時のままで暮らしている姿を目の当たりにする。
そして手厚くもてなされ有頂天となり、以後頻繁に通うようになる。
昼来ても夜来てもまずは一緒にビールを飲む。昭和30年代に流行ったレトロなアイスクリーマーをぐるぐると回す母親の手伝いをし、下駄履きの父親とキャッチボールをする。中年にもなって知らないのかと言われつつ花札のおいちょかぶで盛り上がる。
だが死人に会う度に体が衰弱していく原田は、両親と別れなければならない。
「お前を大事に思ってるよ」
「お前に会えてよかったよ。お前はいい息子だよ」

結局のところ、ご馳走するはずだったすき焼きを食べる暇もなく両親は消えていく。
手作りアイスクリームをおいしそうに食べる三人の姿が、心に残った。
  (注釈3)

映画が終わる間もなく、オバケを食したいと思った。酒の肴にもってこいだ。
だが実現したのは数年後で、昔食べたクジラの刺身より落ちるが、30年ぶりに味わう珍味だった。
手作りアイスクリームもいいが、すき焼きを食べながら酒を飲むのも悪くない。
しず子が里子に酌をしてもらい、「楽しみが少ないのよ、あの世は」と言って美味そうに酒を飲むシーンがある。
もし化けて出らず、あの世で映画と圓楽さんの落語を見ながら呑んだくれる方法があったら、教えてもらいたいものだ。

注釈1、「大停電の夜に」(監督:源孝志)
      日本映画 2005年製作

      メーカー:角川エンタテインメント
      メディア:DVD

注釈2、「居酒屋ゆうれい」(監督:渡邊孝好)
      日本映画 1994年製作
      日本アカデミー賞最優秀助演女優賞(室井滋)受賞
      キネマ旬報助演女優賞受賞

      メーカー:ポニーキャニオン
      メディア:DVD
注釈3、「異人たちとの夏」(監督:大林宣彦)
      日本映画 1988年製作
      原作、山田太一
      日本アカデミー賞最優秀助演男優賞(片岡鶴太郎)受賞

      メーカー:松竹ホームビデオ
      メディア:DVD
        

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